熱中症
まだ大学生だった遥か昔。
後に社員となる環境調査会社のアルバイトとして、近畿地方北部の某所で昆虫調査をしていた。
折しも季節は盛夏。照り付ける日差しの中、
アルバイトだったので車を運転することはなかった。
ある地点まで運んでもらい、指定されたゴールまで採集しながら歩いて行き、そこで社員の運転する車に拾ってもらう。そんな形式で調査を実施する。
さて、当時昆虫学研究室に所属していたとはいえ、真夏に一日中採集をするような経験はこれまでなかった。
要するに、炎天下の仕事にまだ慣れていなかったのである。
もちろん水分補給用にペットボトルの飲み物を持っていたが、予想外の暑さに早々と飲み切ってしまった。
さらに炎天下を歩き続け、汗をかいたらまた喉が渇いてきた。
迎えの車はまだまだ先である。
当時携帯電話はまだ普及していなかった。周りは田んぼばかりで、自動販売機も店も見当たらない。
既に記憶があいまいであるが、当時はコンビニも今ほどどこにでもあるわけではなかった……はず。
このままでは、
昨今では熱中症と呼ばれるが、当時はまだこの言葉がよく使われていた。余談であるが、日射病は熱中症の一部であり、専門の医学用語ではないらしい。
というわけで、フラフラになっていた自分が目を付けたのが、水田周りの用水路の水。
これ、農薬とか殺虫剤とか流れてないだろうな……。
そんな事を考えながら用水路の水でのどを潤し、何とか初めての真夏の現場から生還できたのだった。
◆
それから数年が過ぎ、会社員になってからのある夏のこと。
とある重要種の虫を探して、近畿地方南部の山を登っていた。
山と言っても、森におおわれているわけではない。大きな木はところどころに生えているだけで、背の低い草の多い斜面を夏の太陽が燦々と照らしていた。
要するに、一息つける日陰がほとんどないのである。
川の周辺の調査もだいたいそんなもんだが、いざとなったら車に戻りやすいし、いざとなれば少し川を離れると自動販売機もある。
それより山の調査は、斜面を登るので消耗が激しい。
水分はちゃんと摂っていたつもりだったが、しばらく歩いていると、頭がぼーっとしてきた。
これは夏の調査ではよくあること。水分をお茶を少し飲んでさらに登山を続ける。
そのうちに、今度は吐き気がしてきた。
……これはまずい。
変なものを食べた記憶もないので、熱中症の症状の可能性が大。
ひとまず水分を多めに摂って、数少ない大きな木の影に横になる。
木陰は比較的涼しく、少しは楽になった。それでも、まだ頭が熱い。
もう少しお茶を飲もうとリュックサックを開けると、液体ム◯が目に入った。
商品名なので一応伏せ字にしておくが、皆さんも薬局でよく見かけるであろう、虫刺されの薬である。
この液体◯ヒ、痒み止めだけでなく患部を冷やす効果もある。うっかり塗りすぎると、風呂の湯の中で塗ったところだけ冷たいという、奇妙な体験が味わえる。
それを思い出して額に塗ってみると、何やら熱が下がった気がした。
なお、素人が熱中症で暴走した頭で考えたことなので、実際の効果は不明。真似する人もいないだろうけど、自己責任でお願いします。
それでも、木陰で休んだのが効いたか、しばらくすると吐き気も治まり、普通に動けるようになった。
調査も、体調に気を付けながら続行し、目的の虫も確認できた。
◆
この事件でようやく懲りて、飲み物を多めに用意する他、熱中症対策を色々と用意するようになった。これについては、長くなりそうなのでまた次回。
熱中症の話なんて季節外れ、と思われるかもしれないが……。
現在、まだ4月だけども、夏日になるところもちらほらとみられる。
特に昨今は、マスク着用のために熱がこもりやすく、熱中症の危険は増大していると言える。
また一部府県で緊急事態宣言が出て、家から出る機会は減っただろうが、室内でも油断はできない。
というわけで、読者の皆様もくれぐれも熱中症にはご注意下さい。
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