デジタルカメラ

 年がばれるだろうが、調査員を始めたころにはデジタルカメラなどというものはほとんど普及しておらず、まだフィルムカメラ全盛の時代であった。


 その後、デジタルカメラが普及し始めたのは二十一世紀になってから。

 かつてはよくお世話になった会社の近くの写真屋もいつの間にかなくなってしまった。


 しかし、仕事の激減した写真屋の方には申し訳ないが、フィルム代、現像費は結構馬鹿にならなかったのである。

 現場終了後には、会社から写真屋にまとまった数のフィルムが持ち込まれてはいたが、写真の内容を考えればあまりいい客とは言えなかっただろう。

 虫の苦手な人も当然いたと思われるし、哺乳類調査では、足跡ならまだしも動物の糞や死体の写真も珍しくなかった。


 あと、一見して訳のわからない夜の森の写真。


    ◆


 哺乳類の調査方法の一つに、自動撮影カメラを用いた撮影法がある。

 センサー搭載のカメラを動物が通りそうなところに設置し、一晩放置する。

 動物をおびき寄せるために、餌を撒くこともある。餌は主に、スナック菓子かソーセージ。

 カメラの前で動くものがあれば、シャッターが切れる仕組みである。


 そして翌日回収。運が良ければ、写っているのはキツネ、タヌキ、イタチ類やテン、シカ、イノシシ。まれにアナグマ、ツキノワグマも映る。最近では外来種のハクビシンやアライグマも増えた。

 カメラ設置からしばらくして、まだ昼間だというのにツキノワグマが餌を漁りに来たのが写ったりして驚くこともある。

 意外に多いのがネコ。人里離れた山の中でも、野良ネコが餌を漁りに来ていたりする。


 それから、人。


 山の中の獣道だけではなく、人も通れる山道に設置することもある。

 そういうところには、山歩きや散歩、山菜採りなどで通りかかる人も結構いたりする。

 カメラと一緒に少し離れたところに撮影装置があるという看板をいくつか置いてあるのだが、気付かれないこともあり、また看板があったからといって通行禁止になっているわけではない、というかそんな権限はない。

 黄昏時や早朝など、一枚目のフラッシュで驚いた顔が二枚目に映っていることもあった。


 最近の自動撮影用カメラは、人や獣に感知されない赤外線フラッシュ搭載で、通りすがりの人を驚かせることはなくなった。

 動物がゆっくり餌を食べているところが見られるようになった反面、そこで餌を食べきってしまい、後が続かないという状況も新たに発生した。


 昆虫捕獲用のトラップを仕掛けたり、花などに来る昆虫を待ち伏せしていたりすると、たまに自分が撮影装置に引っかかる。フラッシュもないので、写真を撮られたことにも気付かない。

 もちろん看板もあるはずなのだが、イノシシ用のくくり罠とかならともかく、写真に撮られるだけならと油断することが多い。

 採集が一段落して、ふと顔を上げると近くにカメラがあったりする。ひょっとしたら、カメラに気付いた時の驚いた顔まで映っているかもしれない。

 昔だったら36枚撮りのフィルムをまるまる無駄にしていたところだ。


    ◆


 デジタルカメラの普及により、残りフィルムの枚数を気にせず、写真が撮れるようになった。無人撮影装置に限らず、普段の撮影でも。


 例えば、葉の上に止まっているチョウを見付け、写真を撮ろうとカメラをゆっくり近付ける。そして、シャッターを押そうとして、その瞬間の動きで飛んで逃げられる。そうなると、残るのはほぼ使い物にならない植物や風景の写真だけ。

 フィルムカメラでそれをやるとダメージが大きいので、慎重にならざるを得なかった。しかし、デジタルだと画質や容量にもよるが、数千枚の写真が撮影可能となった。


 無駄うちを恐れる必要はなくなり、下手な鉄砲も数撃ちゃ当る、というわけである程度質の良い写真が自分でも撮れるようになった。

 とはいえ、それは表現は悪いが機関銃が普及したので素人も戦えるようになった、というようなものだ。

 採集がメインなので、あまり写真にこだわれない、というのもあるし、相手は野生動物なので、こちらの思うようにはいかないことも多い。

 それでも、写真の腕が上がったわけではない、ということは常々自覚しておきたいものである。

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