ごき○り

 久しぶりの更新なのにこんな話で申し訳ないが…………不快害虫の代表とも言える、あの黒い虫の話である。

 スペースを開けておくので、字を見るのもいや、という方はブラウザのバックボタンなどでお戻り下さい。













 家の中で見かける不快害虫というイメージが強いと思われるが、野外にもゴキブリはいる。

 もちろん環境調査の対象である。そして、一応屋内性のゴキブリも……


    ◆


 会社員をやめてフリーランスとなってからしばらくの後。四国の某所で昆虫調査をしていた。

 その日の調査が終わり、旅館に戻って来る。仕事内容によっては朝が早かったり、夜が遅かったりすることも多いので、本当はビジネスホテルが融通がきいて便利なのだが、現場近くにあるとは限らない。その日は夜間調査もなかったので、夕方には宿に戻ってきた。

 部屋に向って歩いていると、廊下の隅を黒い何かが走った。

 普通の人なら悲鳴を上げるか、叩きつぶそうとするかだろうが、だてに昆虫調査員はやっていない。落ち着いてリュックサックから調査用紙を取り出す。


種 名:クロゴキブリ

個体数:1

状 況:目撃・成虫

環 境:屋内

備 考:宿の廊下で目撃。不要であれば削除して下さい


 旅館もその現場の調査範囲内にある。当然そこで見つけた種も対象となる…………はず。

 当のゴキブリは調査用紙を出している間に逃げて行った。宿の廊下なので網は持っていなかったし、素手でゴキブリを採集できるほどの身体能力はない。

 その後、そのデータが実際に使用されたかどうかも、さだかではない。

 

    ◆


 ここ数年話題となっている外来種のアリ、ヒアリの調査にも参加したことがある。

 その調査方法は、粘着トラップ、いわゆるゴキ○リホイホイと同じタイプで大きさは半分弱くらいのものを、餌と共に大量に設置し、翌日回収するというものだ。


 さて、瀬戸内海沿岸の埋め立て地にはトルキスタンゴキブリ、別名チュウトウゴキブリという外来種のゴキブリがいる。クロゴキブリより少し小さい位で、メスは翅が短い。

 wikipediaでは、情報が古いせいかトルキスタンゴキブリは定着の可能性は低いと書いてあるが、多分もう定着しているだろう。

 今さらゴキブリぐらいで驚いたり騒いだりしないが、アリ狙いのトラップにこれが大量に掛かっていると、ちょっとうんざりする。ゴキブリの間にヒアリが埋もれていたりするかもしれないので、ゴキブリがたくさんとれた場合には時間を掛けて調べる必要があるのだ。

 さいわいヒアリは確認されなかった。近くのコンテナで見つかっていたそうだが、その後の処理がうまくいったようだ。関係者の皆様、お疲れ様です。


    ◆


 日本では黒や茶色の種が多いが、海外では透明感のある薄緑のゴキブリや、テントウムシのような模様のあるゴキブリもいる。

 日本だと石垣島や西表島に、ルリゴキブリという金属光沢のある濃青色の種がいる。興味がないと言えば嘘になるが、さすがにゴキブリ目当てに八重山諸島まで行くというのはちょっと。

 そもそもゴキブリ類の美麗種、などという言葉に違和感というか不快感を感じる人も多そうだが。


 ゴキブリはもともと熱帯地方に多い昆虫であり、日本でも南に行くと種類が増える。

 以前南国の話を書いたが、ゴキブリも高知あたりに行くと南方系の種を色々と見かける。

 ヒメチャバネゴキブリ、ウスヒラタゴキブリ、クロモンチビゴキブリ、ウルシゴキブリ……。ゴキブリとはいえ、地元で見かけない種を色々とみられるのはなかなか楽しい。

 サツマゴキブリを初めて自分で採集した時は嬉しかった。翅が短く、まるで三葉虫のような姿をした大型のゴキブリだ。


    ◆


 野外性のうち、おもに森林に生息しているゴキブリだが、一部は県のレッドデータブックに載っていたりする。

 東日本だとオオゴキブリが該当し、愛知県や石川県などで県版のレッドデータブックの対象となっている。

 朽ち木の中に生息してそれを食べる、いわゆる分解者といわれる役割を持つ。もっとも、ゴキブリ自身はセルロースを分解できず、消化管内の共生微生物に頼っている。

 調査範囲内の朽ち木を手鍬や根堀で割って、ゴキブリを掘り出す。ただゴキブリだけが目的というわけではなく、朽ち木からはいろいろな昆虫が捕れる。


 他も京都府や高知県を初め、各府県のレッドデータブックをみてみると、色々とゴキブリの「重要種」が存在する。

 人間が滅んだ後も生き残る、などといわれるゴキブリであるが、森林性の種は逆に人間による開発のせいでその棲みかを失いつつあるようだ。 

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