レッドデータブック -説明編-
十一月に入った。
既に書いたように、昆虫にとっては冬の時期であり、多くの昆虫研究者にとっても、野外調査を終えて標本作製やデータ整理、論文執筆などの室内作業に移る時期である。
昆虫調査員にとっても同じ、と言いたいが、近年では調査から結果提出までの時間がどんどん短くなってきている。そのせいで秋までは非常に忙しく、冬はやや暇になる。
筆者も現在ほぼ現場は終了したが、まだ同定依頼された標本が多数残っている状態である。
そして、同定が終わった後に発生するのが、重要種の選定作業だ。
環境アセスメントにおける昆虫調査というのは通常、昆虫類全種を対象として行われる(例外も色々とある)。
だがその結果、小さな現場でも数百種、大きな現場では千種をはるかに超える昆虫類が記録される。これらすべてについて工事による影響を評価するのは困難、というか無理である。
そこで、確認種の中から絶滅危惧種とされるものを選び出し、それらについて工事の影響を考察するのだ。正確に言うと、『絶滅危惧種』というのは絶滅のおそれのある生物をランク分けしたものの一部であり、報告書などでは『重要種』や『貴重種』などと呼ばれる。
では、集められた昆虫類の中で、どの種が重要種にあたるか。
それを決めるために作られた書物が、おそらく皆さんも名前くらいは聞いたことがあるであろう、レッドデータブックである。
一般に、本の形で出版されたものをレッドデータブック、種の名前が列記されただけのものをレッドリストと呼ぶ。
近年では、まずリストだけがネット上などで公開され、その後ある程度の修正と種ごとの解説文や写真などを加え、レッドデータブックとして出版されることが多い。ただ、予算などの都合により本が出ず、ネット上のリストだけということも残念ながら少なくない。
なお、絶滅危惧種だから、レッドデータブック掲載種だからと言って、これらは法律や条例ではないため、それだけで採集が禁止されるわけではない。
それから、重要種以外の採集された種も、決して無駄になるわけではない。
採集しないと重要種かどうかわからない、というのもあるが、報告書に工事により変わってしまう前の自然の記録が残るのもまた有意義なのだ。この記録、発注元はなかなか公表したがらないのだか。
説明が延々と続くと読みづらいと思われるので、今回はこの辺で。
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