深まる秋

 一月は行く、二月は逃げる、三月は去る、という言葉がある。

 色々と行事の多いその時期は、早く過ぎ去るように感じるという意味だ。


 一方、昆虫調査を生業なりわいとする者にとっては、秋が非常に短い。

 業務にもよるが、通常は同じ場所で春季、夏季、秋季の三回調査を行うことが多い。


 春季調査は、だいたい四月下旬から梅雨前の六月上旬に行われる。ただしゴールデンウィークもあるので、調査適期は約一ヶ月半ほど。


 そして夏季調査は、梅雨明けの七月半ばから八月後半ごろまで。八月後半になるとセミの鳴き声が減って来るのがわかるだろう。セミだけではなく昆虫類も変化している。また、本格的に暑くなる前に調査を行った方がいいという意見もある。つまり八月上旬ぐらいまで。

 期間は春に比べ短いが、天候などの事情により延期になっても、多少は日程に余裕がある。


 そして秋季調査だが、九月上旬はまだ残暑が残っていて、調査は行われないことが多い。

 十月中旬になると、気温が多少高くても確認できる昆虫が激減する。地域によって差はあるが、筆者が主として調査に行っている近畿・中国・四国地方ではそんな感じである。

 西日本だと、平地では十一月下旬まで紅葉がみられるので、一般的にはまだ秋のイメージがあるのだが、昆虫の世界ではもう冬なのだ。

 そのため、昆虫の秋季調査の適期は九月中旬から十月上旬の約一カ月と短い。

 しかも、夏季と違って延期になってしまっても後がない。冬はすぐそばまできている。

 そこに台風が襲来したり、秋雨前線が活発化したりして調査ができなくなることが多いので、もう大変である。


 フリーの調査員は、一つの会社と専属契約をしているわけではないので、社員と違って業務と一緒に日程をずらす、といことは難しい。

 今の現場が終われば、次は別の会社からの依頼、ということは珍しくない。

 例えば、四国の現場が終わって、そのまま自動車を運転し、瀬戸内海を橋で渡って中国地方の現場へ移動、などということもたまにある。ちょっとしんどい。で、間の交通費をうまく会社間で分けるのに苦労する。


 まとまって雨が降ったり、台風が接近したりすると、よく電話がかかって来る。普段はメールでスケジュール確認をすることが多いのに。

 複数の会社で、調査員の取り合いが始まったのだ。

「急で申し訳ありませんが、明日から現場入れませんか」

「すみません。今、別の現場中です」

 当然だが、先約が優先される。


 そうこうしているうちに、短い秋が終わり、気が付けば十一月が目の前である。

 冬には冬の仕事があるのだが、その辺りの話はまたいずれ。


 昆虫は三月後半ぐらいから活動を始め、みられる種類も増えてくるが、実際に次の春季調査が始まるのは四月後半ごろである。


 そうして今年もまた、昆虫調査員にとって長い長い冬がやって来る。

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