第三話 姉妹はお互いに
(紅葉目線)
「ノ...ノアお姉様...?」
後ろからそんな声が聞こえた。
思い切り後ろを振り替えると、驚いたように亜紀が私を凝視していた。
亜紀の目には確信めいたものが宿っていた。
彼女は今...確かに私のことを『ノアお姉様』と言った。
「ステ...ラ...」
私も目を見開いて亜紀を凝視してしまった。
私のことをノアお姉様と呼ぶ存在はステラだけだから...
「ノアお姉様なんですね...?」
亜紀は私に駆け寄り顔を覗く。
前世......ステラは良く私を元気付けようとしてこんなふうに私の顔を覗きこむことがあった。
それは今、目の前にいる彼女がステラであることを証明していて、
「ええ...あなたどうして...?」
ステラがここにいるということは、つまり前世の世界でステラはもう死んでしまっていることになる。
「ノアお姉様...再びお会いできて嬉しいです。
私...私は、前世でお姉様を救うことが出来なかった...
お姉様が濡れ衣を着せられたのも、アンナ様がアルド様と親密になっていくのも、ただ見ているだけだった......ずっと、謝りたかったんです。無力で不出来な妹で...ごめんなさい...ごめんなさい...」
ステラは私の腕を掴んで懺悔の言葉を口にする...
目からは止めどなく涙が溢れ、体は震えている。
私はその震える体にそっと手を触れる...
「落ち着いて?私はあなたを恨んだことなどないわ。」
そしてキッパリ言う。『私は全く気にしていない』と......
きっと心優しい彼女のことだ。ずっとそのことに罪悪感を感じていたのだろう。
「いつから記憶が...?」
私が優しく問いかけると、
「生まれた時からです...」
彼女はそう言ってゆっくりと顔を上げて震える体を必死に落ち着つかせようとしている。
幼い頃から彼女が死刑を待っている罪人のような暗い気を背負っていたのも納得がいく...
笑えなくなってしまうほどに罪の意識を持っていたのだとすれば、さぞ苦しかっただろう。
「ステラ...私はアンナ様の存在を断罪の場で初めて知りました...そして濡れ衣を着せられ処刑されると聞いた時には驚いたけれど...私は思ったの。
私はこのまま生きて、将来アルド様と一緒に王妃として国を支えていくのは難しかったって.....」
そこまで言って、フフ...と笑ってしまう。
「だって、何人もの男と卑猥な関係を持つ女を王妃にしようなんていう愚か者とこの私が釣り合うと思って?」
強気に出ることで、私は前世に未練などないと伝える。まぁ、今のは本心でもある。
だって、王妃になるために血の滲むような努力をして来た私ではなく 男好きの能無し女が良いという男と結婚とか嫌だ。
「それに、私は両親の愛を感じたことがないもの。
私が死んでも気にしないでしょうし、将来の王妃(アンナ様)をいじめた 娘の家っていう傷がついても、今さら揺らぐような地位でもないでしょ?私はもともとあの世界では必要のない存在だったのよ...」
スチュアード家は代々王族に仕え、王国に長年の繁栄をもたらした由緒正しい家であり、歴代のスチュアード家の者たちは優秀な人が多かったのだ。今回の件もスチュアード家にとってはかすり傷程度のものだろう。
「だから、私は処刑されて良かったのよ...あの時、やっと解放された って思ったの。現世で心優しい両親の元に生まれてこれた...友人だって出来た。私は今幸せよ?あの世界で生きていくよりずっと...」
ステラはだいぶ落ち着いて来たのか私のことをじっと見つめている。
私の『幸せよ』という言葉に、一瞬わずかに口元を綻ばせて、真剣な表情になる。
「私はノアお姉様のことを必要ないだなんて思ってなかった。私の憧れであり、大切な家族でした!だから...自分のことを必要ないだなんて言わないでください...」
私に、必死に訴えかけるようにそう言って 悲しそうに眉を下げるステラ。
「私、大好きなお姉様を失って...罪悪感でいっぱいで...お姉様のいない世界で生きていたくなくて...自殺してしまったんです。」
次に言われた言葉に目を見開いた。
彼女は私の死に自殺までしてしまうほど傷ついたというのか...
私は、何故彼女の思いに気づいてあげられなかったのだろう。
こんなにも私を思って、愛していてくれた...
前世の私が欲しかった『愛情』をずっと向けてくれていた彼女の思いに...
前世ではその思いに答えられなかった。でも、現世
なら...私たちはやり直せる。
「ありがとう、ステラ。私はあなたに言われた通り自分を大切にする...愛してるわ、ステラ。」
私はその思いに心からの笑顔で応えた。
ーーーーーーーーーーーー
(亜紀目線)
気づいた時には
「ノ...ノアお姉様...?」
ときいていた。
そこからはもうパニックをおこしていた...だって、
紅葉お姉様は私を見て
「ステ...ラ...」
と言ったのだから。
紅葉お姉様がノアお姉様であると知った時には、思わずお姉様の腕を掴んで悲鳴にも似た声で懺悔の言葉を口にしていた。
どうしてここに...?ときかれた気がするがお姉様の問いに答えられる余裕はなかった...
お姉様に『気にしていない』と言いたげな笑みを向けられてやっと落ち着きを取り戻した。
気づいた時には涙まで流して全身の震えが止まらなかった。
お姉様が私に言う。
「ステラ...私はアンナ様の存在を断罪の場で初めて知りました...そして濡れ衣を着せられ処刑されると聞いた時には驚いたけれど...私は思ったの。
私はこのまま生きて、将来アルド様と一緒に王妃として国を支えていくのは無理だったって......」
お姉様はゆっくりと私に言い聞かせるように言う。
すると突然、フフ...とお姉様が笑い出したのでびっくりして涙も震えも止まってしまった。
「だって、何人もの男と卑猥な関係を持つ女を王妃にしようなんていう愚か者とこの私が釣り合うと思って?」
強気なお姉様の言葉に、私は思う...
お姉様は王妃となるため日々努力していて、淑女の鏡と言われるほど立派であった...
そんなお姉様と、あの愚かな王子が釣り合うかときかれれば、釣り合う訳などないと思うのが普通であった...
「それに、私は両親の愛を感じたことがないもの。
私が死んでも気にしないでしょうし、将来の王妃をいじめた家っていう傷がついても、今さら揺らぐような地位でもないでしょ?私はもともとあの世界では必要のない存在だったのよ...」
確かに、お姉様が死んでしまってもあの両親は何も思っていなかった。
今さら揺らぐ地位ではないのもわかる。でも...
そんな、自分は必要のない人間のように言わないで...
「だから、私は処刑されても良かったのよ...あの時、やっと 解放されたって思ったの。現世で心優しい両親の元に生まれてこれた...友人だって出来た。私は今幸せよ?あの世界で生きていくよりずっと...」
お姉様は今幸せなのだ。だからといって処刑されても良かったとは思わないが、あの冷たい世界から、確かにお姉様は解放された...それは良かったと思う。
でも、でも...
「私はノアお姉様のことを必要ないだなんて思ってなかった。私の憧れであり、大切な家族でした!だから...自分のことを必要ないだなんて言わないでください...」
どうか、伝わって欲しい。
「私、大好きなお姉様を失って...罪悪感でいっぱいで...お姉様のいない世界で生きていたくなくて...自殺してしまったんです。」
私にはお姉様が必要なんです!と...
お姉様は私の言葉に目を見開く。
伝わっただろうか...
「ありがとう、ステラ。私はあなたに言われた通り自分を大切にする...」
ああ、伝わった...嬉しい。
「愛してるわ、ステラ。」
ええ、私もです。
お姉様は、私は何も悪くないとおっしゃいました...
でも、お姉様の孤独に早く気づいて差し上げていたら...
けれど、お姉様は自分を大切にしてくれると言ってくれた。
お姉様をこれからは亜紀として、妹として支えたい。前世で出来なかったように...
『紅葉お姉様』の幸せそうな姿を見たい...
この罪悪感は、あなたの幸せのために尽くし、償います。
そんな決意をしていると、
紅葉お姉様は心からの笑顔を
私に見せてくれた。
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