蛙と蛇

その木はたくさんの花を咲かせていたが、中にはもう実をつけていたものもあったし、地面にはいくつか実が落ちていた。


よう子はその実を拾ってみようとしたら、どこからかカエルがピョコんと出てきてパクっと食べてしまった。


「あ、カエルが。」と思わず呟いた。


カエル?と紗栄子は聞き返した。しかし、カエルは素早くピョコんと跳ねてどこかへと行ってしまった。


紗栄子は木になっている実を取ると、よう子に渡した。


「伯父の遺言ですし、せっかくですから持って行って下さいな。」と紗栄子は言った。



***



紗栄子は、もうしばらく伯父の家に滞在するということだったので、よう子は一人で東京へ戻ることにした。


東京に戻ると、もう夜もかなり遅い時間になっていた。


雑居ビルの階段を上ると、よう子の事務所の前あたりに誰かいるようだった。


「困ったにょろね。この世界には『神』も『王』もいないにょろ。」


と何か変なことを言っていた。


よう子はかなり疲れていたので、心底うんざりした。ああ、変なやつがいるみたい。


やっぱり、どこかで泊まってくるべきだったと後悔もした。


事務所の前でしゃべっているモノを見たとき、よう子はさらに後悔し、ああ私は疲れていると改めて思った。


しゃべっているのは ' 蛇 ' だった。


そういえば、タツキチとセイヤが ' しゃべる蛇 ' がどうとか言っていたっけ?


「甘い香りがするにょろ。お前は誰にょろ?」と蛇が聞いてきた。


こっちが聞きたいわ。


「お前は ' ナダの者 ' にょろか?」


ナダノモノ?何それ?


持っている ' 木の実 ' の甘い香りが増したように感じた。その瞬間、地面がガクンと揺らいだような気がした。


「待つにょろ、いけないにょろ、' 力 ' を発現してはいけないにょろ!」


チカラって何?、とよう子は思った。



-----------------------------

≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・蛇 ・・・ 謎の蛇。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る