甘い香り

よう子のことを '姐さん' と呼ぶ男は、"タツキチ"といった。もう一人は"タツキチ"の子分の"セイヤ"である。


タツキチはお客さんがいることにやっと気づき、


「お客様でやしたか。」と言った。


「それでその、姐さん、ナニがナニしてナニしちまったんですよ。」


よう子も、"ナニがナニしてナニした"と言われても困るのだが、


「ナニってのが何だか分からんが、ナニってのがナニなら、下の医者にでも相談したらいいんじゃないか?」


よう子は面倒なので、下の階で医者をやっている女に押し付けようとしたのである。


しかし、タツキチは納得したようで「ああ、それもそうでやすね。」と言って、ドタドタと出て行ったのである。




依頼者の女性はそのヤクザの二人組とのやりとりを黙ってみていた。特に興味はなさそうであった。


よう子は依頼者に向き直ると、


「その伯父さんと別れたことをわざわざ私に言いに来たわけじゃないでしょう?」と聞いた。


「ええ。」


「じゃあ、ご依頼は何かしら?」


「伯父と別れたあとも、定期的にはメールとか連絡は取りあっていたんです。だけど、数日前から返信が来なくなってしまって・・・。だから私、伯父は死んだんじゃないかって思っているんです。」と彼女は言った。


「以前は伯父も都内に住んでいたのですが、遠くへ引っ越してしまって。」


生きているか死んでいるか、確かめてきて欲しいという依頼だろうか。


「伯父さんの生存を確かめたいのですね。しかしそれなら、警察とかに相談してみるとかでも宜しいのでは?」


「いえ、もし伯父が死んでいるなら、私が最初に発見したいんです。誰か他人じゃなくて。」


「どういう意味かしら?」


「伯父の家まで行こうと思うんです。あなたに依頼したいのは、そこまでついてきて欲しいということなんです。」と彼女は言った。


よう子はますます意味が分からなくなった。


「私、怖いんです。いえ伯父の死が怖いわけじゃなくて...私、途中で "伯父の家へ行くこと" から逃げてしまうんじゃないかって...だから私が逃げないように、見張っていて欲しいんです。」


「はあ、そうですか。」


よう子は少し戸惑っていたがその依頼を受けることにし、その依頼者の連絡先などを聞いた。


彼女の名前は鴨木紗栄子かもぎさえこといった。


「私の方の準備ができましたら、また連絡致します。いえそんなに時間かからずに連絡させて頂きます。」と紗栄子は言った。




よう子は、鴨木紗栄子を玄関先まで見送った。紗栄子は階段を下りていった。


ちょうど、階段の踊り場のところに女医が立っていた。


「彼女、何か '甘い香り' がするわね。」と女医は言った。





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≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。

・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。




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