確実にそうなる運命

シロは纏っていた布切れを脱ぐと、水の中へと入っていった。


朝顔達に"奇妙な"と呼ばれた生き物は、しばらく逃げまどっていた。


「ああワタクシを捕まえないで下さい。いえ、ワタクシは罪を犯してしまったのです。」


「罪を犯してしまったので、捕まえて頂いた方が良いのです。」


カモのような水掻き、ビーバーのようなくちばしをした生き物がそう言った。


混乱しているのか、捕まえて欲しいのか捕まえて欲しくないのか分からないことを言っていた。



「ワタクシはヒトを殺めてしまいました。ワタクシはヒトを待っていただけなのに。」


「ああワタクシを捕まえないで下さいませ。またヒトを殺めてしまいます。」


「お前は何を言っているのだ?」シロは不思議そうに聞いた。


「ナダ様、ナダ様でございますね。ワタクシは待っていました。いえ、ナダ様のことを待っていた訳ではございません。」


ここでは上手くお話しが出来ません。水から上がってお話しを致しましょう。とその奇妙な生き物は言った。



***



水から上がると、その生き物は器用に二本足で歩き、


「ワタクシは' カモノハシ 'でございます。」と言った。


「後ろ足にある爪には触らないで下さいね。またヒトを殺めてしまいます。ワタクシの爪には毒があります。ワタクシは無害なモノではございません。」


「先日、ワタクシを捕まえようとするニンゲンがいて、つい後ろ足で引っ掻いてしまったのです。不可抗力です。その者は死にました。」



「ワタクシは待っておりました。そしてついにお会いすることができました。」とカモノハシはそう言ってクロ王子を見た。


「ジュノー王家の王子様でございますね。お待ち申し上げておりました。ワタクシはクロ・ト・ジュノー王子の従者をするよう申しつかっております。」


クロはどういうことなのか分からず、きょとんとしていた。


「しかし、このような辺境の時空軸に飛ばされてくるとは、王子も不運でございます。」


「ナダ様、この世界ではお初にお目にかかります。しかし、ここは・・・」


ここは・・・、カモノハシは次の言葉を言いよどんだ。


「ああ分かっている。廃墟ばかりの世界だ。」


「分かっておいでなのでございますね。ワタクシは未来を見ることもございますが、見た未来は、おおよそほとんどの場合' 確実にそうなる運命 'となっております。」


「分かっている。それで構わない。」ゲンカイ・ナダはそう言った。





------------------------------

≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・朝顔 ・・・ 砂漠に咲く不思議な植物。人間の言葉を話す。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る