第一章 ≪王国の物語≫
王と王子
少年は13歳になったばかりだった。
父親は「もう秋になる」と言い、少年に白い粉をふりかけた。
その粉は乳くさい甘い香りがした。「出かけるとしよう」と父親は言った。
少年は父親に連れられ歩いていく。
行先は『ヨウ精の木』が群生している『ヨウ精の木の森』であるという。
この季節に『ヨウ精の木』は花を咲かせるというのだ。
『ヨウ精の木の森』にたどり着くと、もう既に夜になっていた。しかし、暗くは無い。
『ヨウ精の木』がうっすらとしたオレンジ色の光を放っていたからだ。
辺りは薄いオレンジ色の世界になっていた。
よく観察すると、
『ヨウ精の木の花』の一輪一輪から ' オレンジ色の光子の塊 ' が放出されていた。
光子の塊は花から数十センチメートル離れると霧散した。
『ヨウ精の木の花』の一輪が「おお王よ、よくぞおいで下さいました。どうか抱いて下さいませ。」と言った。
そう、この親子はジュノー王国の王と王子なのである。
一輪がそう言うと、あたりの花々も一斉に我先にと「どうか抱いて下さいませ。」と言い大合唱のようになった。
やがてその合唱はさんざめく波のように森中に響きわたった。
言葉の波動は本物の大海原の波のように空間を揺るがした。
王は軽く眩暈を覚え、空間が歪むことを感じた。
花々のうち一輪が少年に気が付くと、
「王よ、王子はやがてこのジュノー王国の中興の祖となるであろう。」と言った。
この王子こそが後のジュノー王国の暗黒王『クロ・ト・ジュノー』その人なのである。
(なお、この出来事は<ジュノー王叙事詩〔写本〕>に詳しく描かれているので参照されたし。)
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