第81話【こちらさわやか薬局です⑦】

 たくさんの尊い命や楽しい生活を奪ったコロナウィルスも少し収まり、自粛生活は終わることになった。


 マスクを義務付けられた生活はまだ続きそうだけど、家に籠り続けていた窮屈な毎日とはさよなら出来そうだ。


 この小さな町にも感染者が出た時は不安だったけれど。

 ようやく今までと近い日常が戻って来ると思えば安堵しかない。


 ミーコとの生活は楽しくてずっと続いて欲しいとさえ思っていたけれど、川島さんだって可愛いミーコに会いたいだろう。

 連れて行くことに決まった。


 LINEでやり取りして永崎さんに川島さんとの楽しい思い出をたくさん聞いた。

 ますます川島さんを好きになるようなエピソードを知ることが出来た。


 やっぱり川島さんは画家らしく

 偏屈な所もあるけれど、心から信頼できる人だと思う。


 絵を描くことは好きだった永崎さんが同じ美術教師になったことこそがきっと答えなのだろう。


 課題を出されて、皆が描くものとまったく違う物を描いた自分を褒めてくれた、それだけで自分は救われたと永崎さんは言っていた。

 家庭の事情で休みがちだった自分をいつも気にかけて寄り添ってくれたと話す。


 理解してくれる人がそばにいることはきっと大きな自信になる。


 薬局ではいろんな人間模様を知ることができる。

 お年寄りの一人暮らしの人は薬だけはなく話すことだけで心の拠り所とされているし、長く難病を抱えている人には勇気も貰えるし私も与えることもできるのだと思える。


 そんな仕事を続けて来れたことは私の自信にもなって来ていると思い始めている。


 今週末にミーコを川島さんの家に送り届けることになった。


 川島さんとも久しぶりに会えるし永崎さんは車で一緒に行こうと誘ってくれた。


「ミーコ良かったね」

 そばにきて体を寄せるミーコの頭を撫でると目を細めながら喉を鳴らし膝に乗って来た。


 ミーコは水道の蛇口からぽたぽた垂れた水を直接飲むのが好きで、私が脱いだばかりの服の上でくつろぐのが大好き。

 毛を取るのは大変だったけれど、その姿も見られなくなる。


 ミーコの茶色と桃色のまだらの肉球や回る洗濯機をいつまでも眺める姿ともさようならだと思うと、嫌がるミーコを抱きしめたくなる。

 ミーコはするりと逃げながら「みゃ〜」と鳴きながら振り向いた。


 私を癒してくれた1匹の猫とはこれからも時には会いたいと思うし、川島さんや永崎さんとも繋がっていたい。


 そう思えることが嬉しかった。


 私はここで生きていく。


『それじゃあ日曜日の11時に迎えに行きます』と送られたメッセージに返信をした。


『よろしくお願いします』


ミーコの後ろ姿の可愛い画像も一緒に送ってスマホの画面を閉じた。

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