第79話【私だけのカメラマン】

 晴れた日の昼下がりに私は花嫁衣裳を着て、愛する人の元へと旅立つ。



 小さい頃、父さんはカメラマンだと思っていた、幼稚園の時も小学校の時も他のお父さんよりも大きなカメラを持って私を撮る。


 かけっこでビリだった時も、恥ずかしそうに踊る姿もぜんぶ私が真ん中で笑っている。


 仕事を休んでさえ来てくれているのだと思うと嬉しかった。


 小学高学年になった授業参観にも来てカメラを回していた。


 その日の授業では理科の実験だった。


「あの人誰のお父さん?」

 今年転校してきた、由香里ちゃんが私に話してきた。

「知らない」っと言って下を向いた。


 その日の夜、私はお父さんに言った、「もうカメラなんていらない、恥ずかしいから来ないで」


 お父さんは寂しそうにうなづいた。


 あの日から私のカメラマンは行事に参加しなくなった。


 中学の部活ではテニス部だったけれど、公式戦には出る事もなかったし、高校では部活さえしていなくてアルバイトをしては、友達と遊んでばかりいた。


 お父さんと話すこともほとんどなくなっていた。


 結婚式の時に流すビデオを編集するために古いビデオを何度も観た、あの日の実験の参観で途切れてしまったけれど。

 ビデオの中には笑ってる私がたくさん映っていて、たまに聞こえるお父さんの声を聞くと悲しくなった。

「綾乃!頑張れ~!もうすぐだ」

 マラソン大会でほとんどビリで走る私に大きな声で応援してくれた。

 最後まで諦めないことを、伝えてくれていたんだ。

 いつも一番大きな声で私のことを応援してくれていたんだ。


 お風呂上がってきたお父さんに私は言った。

「お父さん、明日の結婚式、ビデオで撮って欲しい、たくさん」


「おう、任しとけ」


 押し入れから埃を被った大きなビデオカメラを出してきたお父さんの瞳は少し潤んでいる。


「幸せになれよ」


「うん、ありがとう」


 初夏の真っ青な空の下で、大きなビデオカメラを重そうに担いだ父さんが私を呼んだ。

「綾乃! 」


 振り向いて「私、幸せになるね」

 そういうとお父さんはカメラを止めずに笑って手を振った。

これからももっとたくさんの思い出を撮って貰おう、そう思いながらお父さんに笑顔で言った。

「ありがとう!お父さん、大好きだよ」


青空に白い飛行機雲、私だけのカメラマンはこれからも私を写してくれる。


 ~了~


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