第69話【双子に生まれて~マナとミナ】

 双子に生まれた私たちはほとんど毎日一緒に行動している。



 同じ服を着せられても、引き立て役でしかない私とまるでアニメのプリンセスのような妹、二卵性双生児として生まれたのが不幸の始まりだった、可愛い妹と残念な姉。

救いは両親が分け隔てなく育ててくれた事、すごく感謝してる。

 私は色黒で背も低い、妹は雪のように白くて華奢でスラリとしている、誰が見ても美少女だと言うだろう。


 二重まぶただけは同じだけど、私はタレ目で暑苦しい目をしているのに、妹は切れ長の涼しい瞳。


 その2人が同じ服を着せられたところを想像してみて欲しい。


 誰が見たって姉の私は引き立て役

 可哀想なシンデレラの意地悪な姉。

 シンデレラは元々可愛いから誰からも好かれる

 私はめちゃくちゃ頑張っても普通の人でしかない。

でもお揃いの服は何だか好きだった。

さすがにもうすぐ20歳だからお揃いはパジャマくらいだけどね。


 ミナは見た目が可愛いだけでなくて、優しい性格だ、性格まで可愛いなんて、どうなの?って思ったりする時もある。


 一緒にいても姉妹とは見られたことなんて1度もない。

「マナ、今度の日曜日に占いに行くんだけど付き合ってくれない?よく当たるって評判だし、ダメ?用事ある?」


 ある日妹のミナが私を誘ってきた、きっといま恋をしていて、自分の本当の気持ちや相手との相性を聞いて占い師に後押ししてもらいたいと思っているのだろう。顔こそぜんぜん似ていないけれど双子のミナの心はお見通し。


 私は別に占いに興味はないし好きな人もいない、でも週末なんていつも暇で、時間を持て余している、だからミナの誘いに乗った。


 商店街から小さな路地に入った、古いビルの2階にある昔ながらの喫茶店にその占い師がいるという。


 日曜日の昼下がりにその店を訪れた。

ドアの中央には「純喫茶・天使の羽」という看板がぶら下がっていた。

この店の名前なのだろう、私はひとつ深呼吸をし、思い切ってドアを開けた。

 ビロードが貼られた古びた椅子、サイフォンで立てられる珈琲の香り

 ファストフード店やコーヒーチェーン店でしか飲んだ事のない2人にとっては新鮮だった。

年配の男の人が席に案内してくれた

オーナーなのだろうか?


 4人がけの席へに座り、驚く程美味しいコーヒーを飲みながら、占い師が来るのを待った。

 私と妹が並んで座っている席には窓があるけれど、窓の外には隣のビルの壁しか見えない。

 だから何だか暗いんだと思った、外から遮断されている場所みたいな不思議な空間だった。

どうして店名は「天使の羽」なんだろう?

でも不思議と気持ちは落ち着く。



「お待たせしました」と現れたのは意外にも若い女性だった。

 長い髪の毛を後ろでひとつに束ねて、眼鏡をかけている、綺麗なお姉さんといった感じだった。


「初めまして、この店の占い師のレイナです、お2人は姉妹ね」

 少しハスキーな声で私たちに挨拶をした。

 私たちの顔を見ただけで、姉妹だと気づかれたのは初めてのことだった。

 まったく似ていない私たちはいつも友達同士にしか見られることはない。


 私たち2人を見ながら


吉祥天女きっしょうてんにょ黒闇天こくあんてんにょね、初めてだわ」と占い師は呟いた。


 その占い師レイナの占い方は背後で人々守っている守護霊からのお告げを代弁することだった。


 ほとんどの人には、守護霊がいる、肉親や先祖、悪人や善人たまには神様などもいる。

 人生で出会う人や物事を支配することもあるし、それが幸せを手繰り寄せることもあれば、不幸な運命を作り出すこともあるらしい。



「きっしょうてんにょ?こくあんてんにょ?」

 初めて聞く名前に2人はびっくりしていた、仏教で言い伝えられている女神なのだという。


 幸福の吉祥天女

 不幸の黒闇天女

 2人は姉妹でありながら、美しい妹の吉祥天女と醜い姉の黒闇天女。

なんて……可哀想


 人間は本当はそれぞれ美しい心と醜い心を持ち合わせていて、まるでコインの表と裏なのだ。


 表裏一体?2人で1人だと言うの?


「もちろんいつも2人1緒でいる必要はないのよ、心が寄り添っていればいいの、それに2人はこれからも色んなことを2人で乗り越えて行くわ、それで知りたいことは何なのかしら」

とレイナは2人に聞いた。



「いま好きな人がいるんです、告白されたし付き合ってもいいかどうかを知りたくて」

 ミナはレイナに恐る恐る聞いて見た。


 じっとミナの顔を見ていたレイナは、キッパリと言った。


「その人には、長く付き合ってる女の人がいるわ、それにその男はウソつきよ、やめておいた方がいいわね」

 私は肩を落とすミナの手をそっと握った。


 そう言ったあと、私の方を向いたレイナは言った。

「あなたは、黒闇天の中に隠れている優しさや慈母のような心をもってるの、それを分かってる人が傍にいるのよ、そしてその人ときっと結ばれるわ、平凡だけどちゃんと幸せになれる」


 私は驚いた、自分は恋をすることもないだろうと思っていたし幸せになれるなんて信じられない。


 占い師のレイナに、1年後には運命の人に巡り会えると言われたミナはすっかり元気を取り戻していた。


 2人分の鑑定料1万円を払って店を後にした。


「歩こ~歩こ~私は元気~」

 夜の道を子どもの頃のように2人で歌を歌いながら歩いた、大好きなアニメの歌だった、だってそんな気分だったのだ。


「おーい、マナ!ミナ!」


 後ろから自転車に乗ったカイトが追いかけてきた、私たち姉妹とは赤ちゃんの頃からの幼なじみだった。


 決してイケメンではないけれど、優しくて頼れる兄貴分だった。


「そばにいる人ってカイト兄じゃない?」

「え〜っ!」と言ったけど、何となくそんな気がしてきた。


「なんだよ!何の話してんだよ! 」

 ムキになって聞いてくるカイトを見ながら私とミナは顔を合わせてくすくす笑った。




 了


あとがき

この物語を書くきっかけになったお話も載せておきます(これって二次創作?)

*****

ある家に見知らぬ女が訪ねてきました。器量のよい美人で「私は吉祥天というものです。私は行く先々に財宝を与えるのです」と話しました。まさに福の神です。これを聞いた主人は「さあどうぞお入りください」と招き入れ接待をしました。

 しばらくしてみすぼらしい身なりの女が尋ねてきました。女を見た主人は「あなたは誰か」と迷惑そうに尋ねました。女は「私は黒闇天と言うものです。私が訪れると、その家の財産はみななくなってしまいます」と答えた。今度は貧乏神です。これを聞いて主人は「すぐに出ていけ」と怒鳴りつけました。

 すると女は「先ほどの者は私の姉です。姉も一緒にここを立ち去ることになりますよ」と穏やかな口調で告げました。

 考えた主人は姉も妹も追い出してしまいました。

 この後、彼女たちはある貧しい家に招き入れられました。その家の主人は「私は吉祥天さまにいつ会えるかと待ち望んでいました。もちろん黒闇天さまも一緒に受け入れます」といって、快く招き入れた、とあります。

福だけを招くことはできないのです。

人は綺麗な心と邪な心を一緒に持ち合わせているのだから。

そしてそのどちらも大切なものなのかもしれないと思って書きました。


妹・吉祥天女(天照天女)夫は毘沙門天

姉・黒闇天女━━━夫は閻魔王

共に母は鬼子母神です

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