第63話【怪談~初盆の夜に】

 久しぶりの帰省だった、昨年の夏に亡くなった父さんの初盆で私は娘を連れて実家に帰った。


 父さんが死んで1人で住んでる母さんの事は気にはなっているけれど子育ての忙しさから、寂しい思いをさせていることに心を痛めていた。


 夕方には弟も遠く離れた所から駆けつけてきている。


 この家は3LDKだが部屋の広さはそれぞれあまり広くはない、けれど生まれ育った家には他には変えることの出来ない懐かしさがあった。


 私たちがいた頃と同じ食器が夕飯の時に使われていることが嬉しいような気持ちとともを寂しさも感じてしまう。


 私と弟が使っていた部屋は、既に物置として使われているし、もう1つの部屋に設置されたエアコンは古くて動かなくなっているのだという母さんの話で、私と娘のミサトと母さんそして弟は同じ部屋に眠ることになっていた。


 朝から私たちが来ることでバタバタしたであろう母さんは既に静かな寝息を立てていた。


 夜更かしをさせてしまったミサトは既に夢の中だ、娘を布団に寝かせ、トイレに行った。


 用を足して部屋に戻る時に隣りの部屋に目をやると網戸越しに今年入学したばかりのミサトよりは大きな男の子がこちらを見ていることに気がついた。


 灯りを付けようと、長い紐を引っ張って見たけれど何度引っ張っても灯りは付かなかった、夕方この部屋に入った時には確か点いたはずなのにと思うと急に寒気がした。


 そして窓の外を恐る恐る見るとさっきいた男の子の姿は見えなくなっていた。


 風通しのために開けている窓を閉めることもせずに部屋に戻った。


 姉弟で昔話しで盛り上がっていた弟の治彦は寝転がってスマホを眺めていた。


「ねぇ、変なものみたんだけど、窓の外から男の子がこっちを見てたの」


「なんだよ、姉さん今何時だと思ってるんだよ、夜中の2時だぜ、いるわけないじゃん」


「でも確かに見たのよ、でもこっちを見て笑ってるように見えたの、ちょっと一緒に見に行ってよ」


「仕方ないなぁ、エアコン効いてるのこの部屋だけだし暑いの苦手なんだけど」と言いながら弟の治彦は渋々布団から起き上がった。


 隣りの六畳間には仏壇がある


 その日は三日月の夜で部屋には暗い闇が広がっていた。

 さっきは何度つけても点かなかった蛍光灯は治彦の手によって灯りをともした。


「姉ちゃん何を寝ぼけたこと言ってるんだよ」


 気のせいにするにしては男の子の服装をちゃんと覚えている。


 窓の鍵を閉めて、冷えた部屋に戻った。


「てかさ、ここ3階だぜ、ベランダに入ることなんて子どもには無理だって」


 私は子どもの頃良く夜泣きをしていた、それは何かの気配が怖くて泣いていたのだろうと思う。


「その子ってさ、坊主頭?」


「そう!」


「まさか青のサッカーユニフォーム?」


「そうだったけど、なんか知ってるの?」


 弟はタオルケットを被りながら何かを考えているようだった。


「何よ言いなさいよ」


「それってさ、俺が小5の時に行方不明になったヤツじゃないかな、まだ見つかっていないはずだと思うけど、学校でいつも目撃情報がないかと何度も聞かれたし」


 きっとそうだったのだろうと思う、悲しいけれどその子はこの世にはいないはずだ。


 でも笑顔だったのだけが救いだった。


 心のなかで冥福を祈りながら「父さん、寂しそうな男の子がいるから探し出して上げて、きっといい子だと思うから」とお盆の間帰って来ているだろう父さんの魂に頼み事をした、優しい父さんだきっと見つけ出して優しく抱いてくれるだろう。



 了


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 ~あとがき~

 今朝この物語とよく似た夢を見ました。そして暗闇のなか目を開けると部屋にはあの花柄が一面に広がっていました。(過去に何度も見ている)

 やっぱり霊的な何かなのかなぁと思いながら書きました。


 夜に読んだ方ちょっぴり怖いお話ごめんなさい。

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