第59話【ファミリー】
その頃、家族では揃ってトランプをするのが流行っていた。
和人は中学生だけど思春期独特の反抗期とはかけ離れていたし素直に育っていた。
「お兄ちゃん!もう1回!お願い!」
妹の佳奈は七並べで連敗中だった。
「佳奈はやり方が甘すぎるんだ、だから勝てないさ」
「次は勝つかもしれないもん」
不満そうな顔をする佳奈に母親の久美が声をかける。
「佳奈は優しいからね、でもねそれでいいんだよ」
そう言えばその頃は良くトランプをやっていたことを和人は懐かしさと共に思い出していた。
父親の康之と母親の久美、妹の佳奈は本当の家族ではなかった。
高校生の頃両親から打ち明けられた日のことを忘れない。
「赤ちゃんだった和人は母親を欲してた、何度も何度も施設に通ってやっと私たちの子どもになったの」
子どもに恵まれなかった夫婦は児童施設に通って和人に巡りあった。
その初めて聞いた言葉に和人は動揺した。
「佳奈は?佳奈もそうなの」
気がつくと和人には妹がいた、いつも「おにいたん」と言ってついてまわる妹が可愛くて仕方なかった。
「佳奈は悲しい生い立ちの子で、アパートに取り残されて、死ぬ寸前に保護されたと聞いたの、だからこそ私たちの子どもに、和人の妹にしたかったの、いつかは話さないといけないとは思ってたけど今まで言えなかった、私とお父さんだっていつかは死ぬ、ちゃんと伝えることを話し合って決めたの」
父親は単身赴任で今は遠くに住んでいるけれど、週末には自宅に帰って、家族揃って食事をする。
家族思いの優しい父親だ。
今思えば、和人は父親にも母親にも似ていないことには薄らと感じていたのは間違いない。
佳奈はさっきから涙ぐんでいて何も言わない。
今年の春に和人の通う高校に入学し佳奈は赤いリボンのセーラー服を着ている。
寄せ集めの家族だったことに動揺してもおかしくない。
でも佳奈は涙を流しながらもはっきりと言った。
「私の父さんも母さんもお兄ちゃんだってここにしかいないの!!ここにしかいないの!!!」
佳奈は小さな子どもの頃のように久美に抱きついて大声を出して泣いた。
和人も心の中では泣いていた、でもそれは感謝の涙だった。
捨てられた子どもを自分の子として育てるには苦労もあっただろう、なのにある時はキツく叱り、その後にはきまって優しく抱きしめてくれた。
和人はふと立ち上がりちゃぶ台の横の棚から懐かしいトランプを取り出した。
静かにトランプをテーブルに並べみんなに配った。
「佳奈、そろそろ勝てよ」
「お兄ちゃんなんて今度こそ負かしてやるよ」
トランプを広げながら久美は流れる涙をそのままに笑った。
*****
そして今花嫁姿の可愛い妹は愛する人の元へ嫁ぐ
自分の家族と同じくらい良い家族を作って行くだろう。
「佳奈おめでとう」
ウエディングベルは高らかに春の空に響いていた。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます