第58話【桜が咲く日~詩的な物語】2020年4月5日

 時は流れていく、流されるのを拒むことは許されなくて私は心を抱きしめる。


 母さんの余命半年の宣告を受けてから夢の中にいるようだった。


 人は7歳までは夢の中にいるようなものだと、昔読んだ本の中に書かれていたけれど、大人になっても同じなんだと思う。


 でもそれは悲しみを和らげるためなのかもしれない。


 すっかり痩せてしまった母さんは自宅で逝くことを望んだ。


「ルリには迷惑をかけるけどごめんね」


「そんなことないよ、私も母さんと一緒にいられることは嬉しいし、だからもうそんなことは言わないで」


 私の花嫁姿を見ることだけを楽しみにしていた父さんは、私たち2人を残して死んだ、それから2人で一生懸命に生きてきた。

 父さんの分まで涙を流した母さんは私の花嫁姿をみて小さく呟いた。


 *****

 天国から見ていてくれたわよね、私たちの可愛い娘は花のように美しかったわよ、きっと褒めてくれるわよね、ルリはあなたにそっくりで時々悲しくもなったけれど。

 私たちが愛し合った証でもあるあの子は優しい子に育ったわ。

 もうすぐあなたの元に行くから、私をちゃんと探しだしてね。

 そしてあの頃と同じように私を抱きしめてね。


 *****


 母さんは桜の花が咲き乱れる春の日に天国へと旅立った。


 夢をみているように優しい笑顔で


 泣かずに見送りたいと思っていたけれど、私の目からは涙が溢れた。


 母さん、私の隣にはちゃんと愛する人がいるわ。

 父さんと同じくらい私を愛して守ってくれると思うから大丈夫。


 私を産んでくれてありがとう。

 愛してくれてありがとう。

 愛することを教えてくれてありがとう。

 命をありがとう。



🌸了🌸

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