第49話【恋愛小説~春】
土曜日の昼下がり曇天の街を
私は荒れ地に放り出されたような気分になって、駅ビル1階のスターバックスに逃げ込んだ。
大きなカップでコーヒーを頼み、それを飲んだら帰ろうと考える、ようするに今日、家にいたくなかっただけなのだ、それなら何もこんなところに来なくても、映画でも観に行けばいい。
映画館には行ったのだ、恋愛映画(ハッピーエンドと思われる)子ども向けのアニメ、壮大な歴史作品しか選択肢はなかった。
数時間前に失恋した私なのだ。
そんな作品を観たいなんて思えない。
28歳という年齢さえも、中途半端で、おさまりの悪いものに感じられ自分をもてあましていた。
窓の外を見ると静かに雨が降り出していた。
傘をさすほどの激しい雨にはならず道行く人々も足早に通り過ぎていくだけだった。
窓際の席に座ったのが間違いだったのかと思うほど、窓から見えている街の通りには、寄り添いながら歩く幸せそうな恋人同士がたくさん目に付いた。
きっと自分が幸せだった頃にはまったく気が付かなかっただろうし
その事が余計に悲しみを呼び起こした。
私はアパレル会社でファッション小物などのデザイナーとして一生懸命働いてる。
仕事が面白くて毎日が楽しかったし、優しい彼氏もいた。
その彼氏
次の言葉を聞くのが怖くて逃げ出した。そしてこうしてコーヒーを飲んでいる。
その時スマホにメッセージが入った。
「なんで、さっさと帰っちゃうかなぁ、有香が仕事頑張ってるのは俺が一番知っているし、だからついてきてくれとは言えないけど、赴任予定の1年間だけ待っていてくれないか?
とりあえず渡したいものがあるからどこにいるか教えて 」
空はまだ雨雲におおわれ、天候は好転する気配はない。
そして青空の欠片すらも見えない。
でも少しだけ暖かい気持ちになって冷めたコーヒーを口に含んだ。
30分後、傘もささずに入ってきた康祐の手にあるのは小さな花束だった。
私たちは今小さな1歩を歩き出そうとしている。
誰だって先のことには分からない、約束が果たされるかなんて分かるわけもない。
「俺が別れたいなんて、いつ言った?もちろんついてきてくれると嬉しいけど、それは有香が決めることだし、ただ俺は別れる気はないからそれだけは忘れて欲しくない」
キラキラ光る綺麗な指輪が涙で
いつの間にか優しい光が射し込む道を肩を並べて歩いた。
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