第48話【たからもの】
夢の中でもいいから逢いたいと思っていたけれど、そんなことは叶う事もなく私は大人になった。
生涯を共に生きようと思う人にも出会い毎日を楽しく過ごしている。
新居への引越し準備をしていた日曜日の昼下がり
3段ボックスの片隅に小さな箱を見つけた。
そうだった、あの日泣きながら荷物を整理していた時に見つけた母の形見だった。
数年ぶりに開けた薄い水色の箱の中にはたくさんの思い出が詰まっている。
「おかあさん、おしごとおつかれさま、いつもおいしいごはんありがとう」
「だいすきなおかあさん、ははのひのぷれぜんとです、だいじにしてね」
「おかあさんごめんなさい、もうリョウくんとケンカしないからね」
たくさんの小さな手紙やメッセージカードや手作りのお守り、ビーズで作ったブレスレットや携帯ストラップその全てが大切そうに箱の中に眠っている
あの頃、母の日や七夕などに近くのスーパーでは小さなカードが置かれて自由に書くことが出来た、いつも持ち帰って1枚はこっそり書いて母さんに渡していたっけ
その箱の中には小さな私と弟がたくさん入っていた。
こんなに大切にされるのだったらもっと丁寧に書いて置けば良かったのにと思うほど、つたない文字が並んでいる。
夏のある日、やっと乗れるようになった自転車や友だちとの遊びに夢中になって少し暗くなってから家に帰ることがあった。
玄関の前で待っていた母さんの怖い顔は今でも忘れられない。
叱られると思ったのに、母さんはいきなり抱きしめてくれただけだった。
その暖かい母さんの匂いは私が大好きなものだった。
私もきっと母親になるとわかるのだろうか?私もあんな良い匂いの母さんになれるだろうか?
「おかあさんにしてくれてありがとうね 」
母さんの口ぐせになっていたこの言葉を今あなたに返します。
「母さん、ちゃんと大人になったよ、そして大好きな人と結婚もしたよ、ほんとの子どもじゃないのに愛してくれてありがとう 」
そんなことを考えながら母さんが宝物としていてくれた薄い水色の箱を抱きしめた。
花嫁姿を楽しみにしていてね。
━━━━━━━━━*おわり*
◆あとがき◆
今、テーブルの上に置いています。
引越し準備の為に掃除をしていた時に見つけたこの箱にはたくさんの小さな手紙が入っています。
母さんが使っていたタンスの中に大切に入れられていました。
書いた私さえ忘れてしまっている小さなメモさえも置いてくれていたのだと思うと嬉しかったです。
久しぶりの短編はただの思い出のお話でした。
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