第43話【ジングルベルはきこえないけど…】

 【ジングルベルはきこえないけど…】


 クリスマスの前に僕は現実を感じていた。

 どうしてこんな時期にフラレちゃうんだよ。

 色々と計画していたし、プレゼントも買ってたのに。

 真菜は言った。

「ゴメン…私もう貴也君とは付き合えない」

 僕は理由も聞かずに別れを受け入れた、僕はいつもそうだ、だって相手の気持ちはその人にしか決められないし別れるのは嫌だと言ったところで誰かの心は変えられない。


 子どもの頃この時期はサンタさんに手紙を書いた。

「プレイステーションを下さい」そう書いたってプレゼントは本だったし。


 いつもの立ち飲み屋でビールで乾杯したあと

「お前、相変わらずバカだなぁ」

 トオルは一刀両断だった。

「何だよ!バカ呼ばわりすんな」

 そう言いながらもトオルの言う通りだと思った。

「しかし…真菜ちゃんと結婚すると思ったんだけどな」

 その言葉に僕は何も言えなくなった。


 しかし…どうして別れを告げられたのだろう、先月だって2人で旅行にも行ったし、思い当たることなんて少しもなかった。


 出会った頃のことを思い出してみた。

 高校を卒業して最初の同窓会で綺麗になった真菜を見てその日のうちに告白した。

 ずっと好きだったと言われた時は僕の方がびっくりしたけどすごく嬉しかった。


 喧嘩もしたし、会わない時期だってあったけどずっと2人で歩いて来たはずだった。


 大喧嘩した日のことを思い出すと何故だか涙が溢れてきた。その後も同じように接してくれていたけどその頃真菜は別れを決めたのだろう。


 こんなに好きなのに僕はその事を真菜に言った事がなかった。

 いつも優しくて仕事の愚痴も聞いてくれたのに、僕は自分の事しか考えてなかった。


 急に真菜に会いたくなった。


 小さくて可愛い真菜に会いたくなった。


 とりあえずこの気持ちだけは伝えよう。


 もうすぐ僕の住んでるアパートに着くけど、反対方向に走り出した…


 ただ伝えたいその気持ちだけで

 この気持ちだけで

 全力疾走だ!


 街はイルミネーションでキラキラだ

 悲しくなるくらいに輝いて見える。


 いつもの場所に着いた、鍵は返したから入れない真菜のアパート。

窓には明かりが灯っていない。


 外階段の冷たさが身体全体の温度をどんどん奪っていくけど僕はそこに腰掛けて真菜の帰りを待った。


「貴也くん…」

 膝を抱えた僕はウトウトしていたみたいだ、気がつけばコンビニの袋を持った真菜が立っていた。


「メリークリスマス!…………今渡すものはないけど…僕と結婚してください!」


 フラれた女の子に言うことではないけど、咄嗟にその言葉が口から飛び出した。


涙ぐんだ真菜は小さな声で「はい」と返事をした。

 


コンビニの袋の中のショートケーキと骨無しチキンは1つだけだったけど…今年は最高のクリスマスになった。


🌲おしまい🌲


✽・:.. MerryX'mas✽・:..







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