第42話【光のルネサンス】


「光のルネサンス今年も中之島でやってるんですが、行ったことありますか?」

 思い切って声を掛けたのは私のほうだった。

 パソコンに向かって仕事をしていた松山さんは「えっなにか言いましたか?」

 この人は夢中になると耳が遠くなるらしい。

「中之島の公会堂で毎年行われてる光のルネサンスのことですけど…」

「あー聞いたことはあるけど行ったことはないです」

「あっそうなんですね」

 この人は彼女いないのかな、隣に座っている松山さんは中途採用でこの会社に入って来た、真面目に仕事をこなすから上司からも信頼されている。

 同じ歳だけど、社歴としたら私の方が長いからいつも敬語で話してくる。

 もっと仲良くしたいけれど、飲み会の時も敬語だ。

 

その日理不尽な事で上司に注意された。

 会議に必要な資料の部数が足りないと言われたのだけど、今回の資料はノータッチだった。


 反論するのも面倒くさくなって「すみませんでした」と課長に言って席にもどった。

 小さなため息が聞こえたのか松山さんが、声を掛けてくれた。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと課長に叱られました…」

「山田課長はキツイっすもんね、気にしない方がいいですよ」

「気をつかわしてごめんなさい…ありがとう」

その日は月末も近いから会社の中はバタバタとしていた、残業したって今日中に終わるはずもない。

 

 でも限界だ、とりあえず明日に回して帰ろうと席をたった時に松山さんが声を掛けた。

「その中之島のイルミネーション見に行きますか?僕も見てみたいから」


 街を歩くとカップルだらけだった、スーツ姿の男性と歩くのはカジュアルな服の女の子だったり、テイストを揃えた服装のカップルがいる中で、仕事帰りそのまんまの姿で松山さんと歩いていた。

「森田さんて、不器用ですよね」ボソリと声を掛けてきた。

「そうなんですよね、不器用過ぎて…アホ丸出しですよ」

 笑いながら返事をすると

「好きっすよ、そんなところ」呟くように言った言葉に少しキュンとした私がいた。


「あの…できたら同じ歳なんだから敬語やめて貰っていいですか?」


「あ…見えて来ましたよ、公会堂」


 そこにはいつも見ている古い建物が光と輝きで彩られてたくさんの人に瞳に映っていた。




「あの…手を繋いでいいですか」

突然の言葉にびっくりしたが、松山さんの言葉に返事をせずにそっとその大きな手に触れた。


 小さな恋はこうして始まっていく…


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