第40話【なんてったってアイドル】

 私はアイドルにずっとなりたいと思っていた、AKBやハロープロジェクトにも応募したけど、1次も通らない、でも諦められなくて色んなオーディションを受けた、いわゆるご当地アイドルなどにも選ばれることはなくダンスやボイストレーニングだって流石に通っていられない。中学や高校生しかいないし。お金だってすごく掛かる。

 可愛く見られたくて化粧の動画をみて練習して上手になったのに、今年27歳になっちゃった、この歳の現役アイドルだっているけれど、みんな若い頃から頑張ってきた人たちばかり。


 この歳までボーイフレンドさえいなかったのは、アイドルになって過去を暴かれた時に綺麗なままでいたいからだったんだ。

「吉田さんこの資料を会議までに20部コピーを取っておいてくれますか?」

「わかりました」

 私は今年から派遣社員としてこの会社で働いている。

 日用品の卸の小さな会社だし社員はおじさんばかりだけど、みんな優しいしアラサーの私でも「お嬢ちゃん」って呼んでくれる。


 今までフリーターだった、今も同じようなものだけど、月曜から金曜日まで同じ時間働くのは初めての事だった。

 コンビニや居酒屋でのバイトは気楽でいいけれど、まわりの友達は正社員ばかりだし主婦になった人もいる、いつまでもアイドルを目指してなんていられない。そしてこの会社に派遣されてもうすぐ半年、今月末で派遣の期限は切れてしまう。


「吉田さん来月からどうするの?今月いっぱいでしょう?次は決まってるの?」

 この会社の唯一の女性社員の高柳さんは母親と同じ位の歳で勤続20年以上のベテラン事務員さんだ、慣れない仕事にアタフタする毎日だったけど、優しく教えてくれた。

「次の派遣先はまだ不明なんですよ、高柳さんにはたくさん教えてもらったから残念です」

「ここの正社員になったらいいのに、私が社長に話して見ようか?」

「そんな、とんでもないです、きっと私より優秀な人がきっとまた派遣されて来ますよ」


 日用品を取り扱っているとはいえほとんどが100円ショップに置かれている商品だ、企画OKが出たら海外で製造して販売するのだ。

 大手の100円ショップに行くとたくさんこの会社のものが手に取れる。


 派遣社員の私の為に送別会をやってくれるというので近くの居酒屋に向かった。


 お世話になったおじさん社員さん達にお礼を込めて積極的にお酒をついでまわった。

「何も出来ない私を我慢強くみて下さりありがとうございました、どうぞ皆さんお元気で」と挨拶をした私に暖かい拍手が贈られた。


 社長が締めの言葉を始めた


「本日は歓送迎会です、新しい社員をここで紹介します!吉田さんもう一度前に来てくれる?我社の若手のアイドルとしてこれからもよろしくお願いします」


 私には居場所が出来た、夢見ていた場所とは違うけど

 ちょっとだけ輝けるかもしれない。

貰っていた花束を抱いたままでその場所から挨拶をした。

「よろしくお願いします」


◇おしまい◇

あとがき

高校の同級生でずっと宝塚歌劇団を目指していた友達がいます。願いは届かなかったけど、その努力は尊敬に値すると思っています。




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