第39話【僕達の黒板アート】

「武田君てさ、もしかして私の事好きなん?」

 いきなり聞かれた、クラスメイトの高木優花だった。

「なんでやねん、好きちゃうわ、何でそんな事言うねん」慌てて返事をしたけど、僕は彼女のことが好きだった、まさか気づかれてるとは、不覚だ…アカンやつや

 

彼女は成績もトップクラスだし、背はあまり高くないけどバランスもとれたスタイルだし顔は某女優に似て可愛い。

「なーんだ残念」そう言って僕の席を離れたけど…


 い…今なんて言った?残念って?

 それってどう受け取ればいいんだ?


 それから僕は彼女を避けるようになってしまった。

 それまでは毎日のように楽しく話したり、ノートの貸し借りをしていたのに、それさえ意識してしまいギクシャクとしてしまってた。もうすぐ卒業式だし高校だって彼女はこの地域で進学校と噂されてる私立に行ってしまうのに。

 僕は公立でもランクが下の方の高校にしか行けないだろうし、きっと接点は消滅してしまうだろうな。


 卒業式を前にして、通い慣れた教室を綺麗にしようとクラスで話し合っていた、その予定された清掃は今日の放課後のことだった卒業式は土日を挟んで月曜日だ、まだ受験前なので塾に行く人は免除されたが、それ以外の人は必須だったから仕方なく参加する事にした、塾だからと嘘をつくことも考えたが、どうせすぐにバレるだろうし、そしたら後が怖い。

 この時期の女子はオカン並にうるさいからな。


 参加したのは全部で10人、その中に高木優花も入っていた、高校はもう決まってるし…そうだよな



 1時間くらいかけて教室は進級した時に先輩達が綺麗にしてくれていた位にピカピカになっていた。


「武田君、お願いがあんねんけど、絵うまいからさ黒板になんか書いてくれへん?」


 卒業式を前に黒板アートを書くのがこの中学校でも流行っていた。


 久しぶりに話しかけられて嬉しかった。

 たまには話しかけようとしてくれた事もあったけど、僕は避けていたから。


 授業中にノートに書いた四コマ漫画を見せると、先生に気付かれないように声を殺して2人で笑ってたあの日のことを思い出していた。


「わかった、書くわ」

 黒板の真ん中に大きな桜の木を書いた。

 まわりにクラスメイトの顔を1人づつ書いていった。

 僕が書く絵に他の生徒たちは色を重ねていった。


 いつもの黒板は僕達の手で大きな作品になった、担任の佐々木先生はきっと泣くだろうな。

 隣にいた優花が「武田君てやっぱり私の事好きだよね…そして、そうだったらいいなってずっと思ってたんやで…だって私が好きやねんもん」



僕は今度こそハッキリと言おう。好きだと正直に言おう。


✼✣✼

底辺の僕と優秀な彼女は今度の日曜日に結婚することになってる。


あの日「武田君てさ、私の事好きだよね」あの言葉がなければきっとこんな日なんて来ていないはずだ。そして頭が上がらない結婚生活が始まるんだな。


いけない…披露宴のウェルカムボードを書けと婚約者に命令されてたんだった…僕の好きな人は怒ると怖いからな

これで失礼するよ。


━━━━━━━━━━━おしまい━



✿あとがき✿

いつも読んで頂きありがとうございます。連載途中の「輪切りレモンの蜂蜜漬け」は今回初めてカクヨムコンの短篇部門に参加することにして、下書きに戻しております。

少し推敲、加筆をして別に投稿させていただきます。

ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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