第22話【吾輩はネコである】

 吾輩はネコである

 そしてヘンテコな名前はある。

 この路地裏で産まれ育った根っからの野良ネコだ、父ちゃんは会ったことはないが、母ちゃんは俺を産んでしばらくしてから天国に旅立った、でも母乳で育ててくれたおかげでこんなに長生き出来てるんだと思う、兄弟たちは暖かい家庭へと貰われて離ればなれだが、今頃はきっとぶくぶく太ってるはずだ、まぁ達者ならいいさ、俺は生まれつき左足が少し曲がってる、だからずっとこの街の片隅でひっそりと暮してるって訳さ、まぁそれも気楽でいいもんだ。


 この空き地の近くにある古びたスナック「葉子の部屋」の葉子ママにはここ数年お世話になっている。店の仕込みの時と、店を閉める時にはいつも大好きなカリカリを専用の皿に入れてくれるし、常連客の本山のおっちゃんには時折暖かい部屋に入れてもらっている。


 本山のおっちゃんは左手の小指が半分ない。

 いわゆるヤクザだったそうだ。

 スナックには色々と訳ありの人達がやって来るのだが、近頃はスナックブームとやらでこの小さな店も客が増えているようだ、20代の若者もやってくる、スナックで他の人と交流するのが流行りなのだと言う。


 この小さなスナックも時折お客さんで満席になることがある。

 昨日の夜だって席が1つも空いていなかった、そしてその中に女子大学に通う3人の学生もやって来ていた、葉子ママは夜になると吾輩を店に入れてくれる、招き猫だって嬉しいことも言ってくれる、この店にははっきりとした閉店時間がなくヒマな時は10時位には店を閉める、たとえ1人でも客がいれば、追い出しもせずに朝まででも客の相手をしてくれる。

 まさに葉子ママは道端に住む飲んだくれたちの女神さまだった。

 その常連客の中でも目立つ風貌の本山のおっちゃんは見た目こそ怖い系なのだが、楽しい酒を飲む優しいおじさんだ、女子大生3人組は先程から本山のおっちゃんと話ながら盛り上がっている。

「えーじゃあ刑務所に入ってたんですか?すごーぃ!」

 よりによってそんなこと聞くか?吾輩はちょっとドキドキしてカウンターの隅からそのやり取りを聞いていた。

「おう、入ってたぞ」

「えーマジで?!何年位ですか」

1人が聞いてきた。


 本山のおっちゃんは吾輩のことを溺愛してる、こりゃ出動しないとだめか?


 おっちゃんは左手の中指、薬指、小指の三本の指を立てた。


 途端に店の中の空気が変わった、女子大生たちはコソコソと話あって小さな声で言った「あの…3年ですか?」


 おっちゃんはキラリと目を光らせた。

「2年半だ!」

 途端に店の中の緊張は消えた、おっちゃんが日陰の生活から足を洗ってもうすぐ10年

 笑いに変えるほどに更生したのだと葉子ママは笑った。


 そして、この人を待っていて良かったと思った。


 吾輩の名前?

 誰がつけたのか今ではさだかではないが「神様」だってさ。


 俺はこの町が好きだ、あとどのくらい生きられるのかはわからないけど気ままに生きていくさ。



✾あとがき✾

職場近くに住んでる野良猫ちゃんがモデルです、なかなか私には懐いてくれませんが、先日近くのおば様にノドをゴロゴロ鳴らして甘えていました、子猫の時からの仲なのだと優しい笑顔のおばさんでした。

路地裏のネコちゃん達も一生懸命生きています。

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