第19話【こちらさわやか薬局です③】
「明日お見舞いに行きますけど川島さんなんか欲しいものありませんか?」
昨日の夜に電話で話した時に聞いてみた。
「来てくれるだけで嬉しいから何もいらない」
そう言われたけど果物屋の店先でこれからが旬の美味しそうなミカンを持っていくことにした。
「こんにちは」
病室の扉をノックして川島さんのベッドに目をやると見舞い客がいた。
「あ、すみません出直しますね」
「森田さん、構わんよ」
そこには若い男性がいた。
「初めまして、先生からいつも聞いてます薬剤師の森田さんですね、僕はそろそろ帰るのでどうぞ」
「すみません、え?先生?」
「そうなんですよ、川島先生は僕の高校の教師だった恩師なんです」
川島さんは高校で美術の教師をしていた、美術部の顧問をしていたそうで彼はその部活でお世話になっていたそうだ。
「これからも先生のことお願いしますね、あとミーコは元気にしていますか?本当は僕が預かりたかったんですけど、部屋がペット禁止で…」
川島さんが倒れた時に真っ先に駆けつけて来てくれたのはこの永崎と言う男性だったそうだ。
「じゃ先生また来ますから、森田さんそれでは失礼します」
長身の男性は私と川島に笑いかけて病室をあとにした。
「川島さん教師だったんですね」
「教師といっても、画家になりたくてもなれなかったから食べる為に教師したんだ」
川島さんが言うことには、美大で絵画を学んだ学生のほとんどが画家志望だけど
現実は厳しい。
そして美術の教師はその大半が変わり者だそうだ。
そういえば、私の通った中学や高校でも美術の先生はそんな感じの先生だったと思う。
「ホントに川島さんって謎ばかりですね」
今では毎日のように話をする川島さんだけど知らないことがたくさんあった。
「今の永崎君は素晴らしい才能を持ってるし、将来は画家としてやっていけると思う、今はわしと同じ教師をやってるけどな」
「そうなんですね、夢が叶うといいですね」
私が差し入れたミカンを2人で食べていると
「そこの引き出しにスケッチブックがあるから、ちょっと取ってくれんか?」
言われた通りにスケッチブックを取り手渡した、パラパラとめくり1枚のデッサンを見せてくれた、そこには私の顔が描かれていた。
繊細に細かく鏡で毎日見ている私の顔がそのページで笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます