第16話【深夜バス】

 母さんからの荷物の中にはいつもこっそりと小さなポチ袋に入れられた1万円札が入ってる、「荷物にお金入れたらアカンねんで」って言っても「そんなん、誰も中身まで見いひんやろ」って年に数回送ってくれるお米や野菜やお菓子などの片隅に入れてくれてる。

 母さんの生活だって大変なのに送ってくれるのは嬉しいけど、僕はこのお金には手を付けないで頑張ってる、そんな時に母さんが倒れたと隣の家の谷口のおばさんから連絡が入った。




 父さんが家に帰らなくなったあの頃から僕と母さんの2人暮しだった、生活は苦しいけどいつも暖かいご飯を食べさせてくれたし、欲しい物も買ってくれていた。



 バイトを少し早く終わらせてもらって、深夜バスに飛び乗った。


 母さんから送られていたお金は全部で17万円になっていた。封筒にまとめてリュックに忘れないように入れてる


 深夜バスはいつも見慣れていた大好きな町に向かってドンドン走る


 まだ何も親孝行出来てないんだから…


 病院に着くと谷口のおばさんが待っていてくれた、母さんが仕事に行ってる時にはいつもご飯やおやつを食べさせてくれてた優しいおばさんが笑顔で迎えてくれた。

「咲恵さん頑張ってるよ、あんたのお母さんすごく頑張ってるから!」

 母さんは仕事を2つ掛け持ちしていた、昼間のお弁当屋さんと夕方からの物流センターでの仕事だ

 その物流センターで倒れ救急車で運ばれたそうだ、「脳内出血」だった。

 緊急手術で一命は取り留めたしリハビリで社会復帰もできると医師から説明されて、僕は涙が溢れて来た。

「あんたが頑張ってるから自分も頑張れるとお母さんもいつも言ってたよ、卒業もすぐだしそれまではおばちゃんに任せなさい!」


 僕には大切にしている恋人がいた、でも彼女が生まれ育った町を捨ててまでついてきてほしいなんて言えなかった。


数年後の冬に母さんは呆気なく僕の前から永遠に姿を消した…


 そして桜の季節がやって来た、大好きな季節だ、そして今年彼女のお腹の中にも小さな命が宿っている。


 僕は感謝している、母さん僕を産んでくれてありがとう、愛美ついてきて来てくれてありがとう、そしてまだ見ぬ僕の小さな赤ちゃん僕をお父さんにしてくれてありがとう。


 さぁ僕達の住む家に帰ろう

 小さいけど大切な場所なんだ…

母さんが守ってくれた小さな家に帰るんだ

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