第14話【こちらさわやか薬局です②】
こちらさわやか薬局です②
「さわやか薬局ですが、どうされましたか?」
「遅くにすみません、今日投薬してもらった薬のことで聞きたいのですが、娘が薬を飲んでくれないんです、服薬用のゼリーでもダメでなんか良い方法ないですか?」
「ジュースとかゼリーに混ぜても苦味があるお薬だと中々飲んでくれないですよね、そんな時は練乳が手軽でいいですよ、スプーンに薬と練乳を混ぜたものをのせて飲ませてみて下さい。
……もしかしてみなみちゃんのお母さんですか?今日投薬を担当した森田です」
「そうだったんですね、ありがとうございます、血液検査の説明もして頂いて助かりました」
みなみちゃんはもうすぐ1歳になる可愛い女の子です、生まれつき心臓に欠陥があり薬は暫く飲み続けなければいけません。
薬局に勤めていると、命の大切さが何よりも重いものだと思うのです。
こんな風に時折患者さまからの問い合わせに対処しています。
そして毎回のように午後10時の交流は続いています。
携帯に表示される番号と電子カルテを照らし合わせると名前がわかることは知っていたけど、敢えて調べなかったのです。
でもある日それを知る事になる。
おじいさんが入院したのです。
数日前のこと「川島徳二」さんの家族の方がこられました。
薬剤師の森田さんにお願いがあると…
そのお願いは、おじいさん(川島さん)が入院することになって、猫を一時的に預かって欲しいと本人が願っているとの事だった。
おじいさんは私とわかって電話を続けていたのです。
幸い住んでいるマンションはペット可能の住宅です。
川島さんが溺愛する老猫(ミーコ)は同居人になりました。
その日の薬局終了後に娘さんと待ち合わせました、私より少し年上の方でとても優しい感じの方です。
「いつも父から聞いていました、会話を楽しみにしているそうで嬉しそうにいつも話してくれます、ホントにお世話になってます。母が他界してから塞ぎ込むことが多かったのですごく感謝してます」
「私のほうこそお電話を心待ちしてるんですよ」
そしてミーコを1人暮しの部屋に連れて帰った、最初こそ不安そうにしていたけど、久しぶりの猫との同居に内心嬉しくてたまらなかった、「ようこそミーコ、これからよろしくね」
病室の部屋番号も聞いて次の日に近所の大学病院に向かいました。
薬剤師と患者として薬局の中では話したこともありましたが、電話で仲良くなってからお会いするのは初めてでした。
「謎の電話の主は川島さんだったんですね」
私は笑いながら持って来た果物をベット脇のテーブルに置いた。
川島さんはあごの無精ひげをさすりながら答えた。
「すまんかったのう、ミーコの世話まで頼んで、娘の家には大きな犬がおるから預けるのは心苦しくて、ミーコも怖がるやろうしな」
「ミーコ元気にしてますよ」
スマホに撮った動画を見せると優しい目で画面を見つめていた。
川島さんは古いけどガラケーを持っていたので、そこに私のスマホの番号を入れた。
「これでいつでも電話してくれていいですよ」
川島さんが言うには、道で野良猫に話しかける私を見かけていてそれがかかりつけ薬局の人だと気がつき猫が家出した時に思い出したと。
まんまとやられたわけだ
ミーコはすぐに懐いて私の心も癒されているのだからいいのかもと思い始めていた。
そして川島さんとの交流はつづいて行くことになった
病院の消灯時間は9時のはずなので多分暗い待合室から電話を掛けてくれたのだと思う。
薬局から帰り夕食を食べてお風呂に入りゆっくりと出来るのは10時くらいなのでその時間にはいつも川島さんと話していた。
「こんなじいさんの話に付き合ってくれてありがたいのじゃが、森田さんは彼氏はおらんのか?」
私は離婚してからというもの誰とも付き合うこともなくおひとり様の生活を送っていた。
「もう、結婚にはコリゴリなんですよ、このまま1人なのは寂しい気もするんですけど」
「まぁ臆病になるのもわからんでないが、まだまだ若いのだからもし出会いがあれば飛び込んでみるのもいいと思うぞ」
私には父親はいない、物心つくころには仏壇の中で私に笑いかけていた。
川島さんとの出会いは私にとって父親との再会にも似たものがあった。
❈つづく❈
(不定期更新)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます