第2話【こちらさわやか薬局です】
「こちらさわやか薬局です、どうされましたか?」
この小さなまちの薬局で薬剤師として働いている森田さやかと申します。独身(バツイチ)32歳です
どうぞわたしの体験談をお聞き下さい。
❋❋❋
夜間、休日にもお薬のことで聞きたい時はこちらへお掛け下さい。
080-84……
初診の患者さまにお渡しする小さな紙
たまには連絡が入ります。
薬剤師の持ち回りで担当された日には古いガラケーを持たされる。
一人暮らし2年目のよる10時に着信が入った。
「はい、さわやか薬局です」
「もしもし」
「はい、どうされましたか?」
電話の相手は老人の男性だった。
「もしもし…猫が…」
「もしもし?薬局の緊急電話ですけど…間違ってませんか?」
「さわやか薬局さんですよね、間違っておらんが」
そのおじいさんの言うことには、飼っている猫が家を飛び出して2日になる、心配で血圧が上がった気がするというのです。
さてさて困った、
「降圧剤は持ってますよね」
「どこにいったんじゃろな」
あらら
困ったことになってきたぞ
「おじいさん聞こえますか?降圧剤はもってますか?そして、差し支えなければお名前教えて頂きたいですが」
「匿名でお願いします。」
そして延々と猫の話をするおじいさん。
誰かと話をしたいのかなって、ふと思った。
私自身も3年間の結婚生活に別れを告げてからというもの1人の部屋は寂しく無性に誰かと話がしたいと思うことが多くなっているからだ。
奥さんに先立たれその奥さんが保護した猫との生活、ただそれだけが今の生きがいで楽しみはその猫だけだと言う。
そして、困ったことはもうひとつ、私自身が猫好きだということだ。
「飼い猫の行動範囲は小さいですから、きっと帰って来ますよ、どこか小さな窓はありますか?」
「トイレにあるかのう」
「そしたら、猫が入るくらいに開けて置いて下さい、もちろんトイレのドアも開けて置いて下さいね」
その日はそこで電話を切った。
次の日の夜の担当は他の薬剤師だった10時きっかりに電話は鳴ったそうだけど、間違えましたとすぐに切られたらしい、どうやら他の人が出ると猫の話は出さないみたいだ。
そして再び私の担当の日
ガラケーの前に正座をして待つ自分にあきれる
10時きっかりにガラケーは着信の通知を知らせる
「さわやか薬局です、どうされましたか?」
「あの…」
「もしもし?…見つかりましたか?」
おじいさんは弾んだ声で
「はい、昨日の夜帰って来ましたお姉さんの言う通りに…」
「良かったですね、これで血圧落ち着きますね」
それから携帯の当番は少し楽しみになって来た
きっかり10時に鳴る電話でたくさんの話をした。
亡くなったおばあさんとの恋物語、私の失敗した結婚生活のことや飼っていた猫の話
薬の話?
はい、そんなことは一切ございません。
週1、2回の私の楽しみになっている
そして今夜も…
「もしもしさわやか薬局です、どうされましたか?」
「この間話した続きじゃけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます