【短編集】青空には短いお話が良く似合う~そよ風が連れてきた物語たち
あいる
第1話【のり弁当の唄】
僕の住むこの町の商店街から角を曲がると小さなこの店はある
店名は書かれていないのに毎日お昼時には小さな列が出来る
その道を自転車で通り過ぎいつものコンビニやファストフード店、あるいは大手牛丼屋に行くのがいつもの僕。
大学の講義が終わりワンルームの小さな我が家に帰りカップラーメンを食べてアルバイトに出かける、そこは古本を扱う大手のショップ、毎日持ち込まれる読み終わった書籍や雑誌の仕分けが僕の仕事。
僕にはわからない、その本を手に取り感動した本を手放す、その行為は本を書いた人への
その
1度捨てられたその
僕には限られたお金しかない、新刊の書籍なんて買えない、だから僕もこの本たちの墓場で本を選びたくさんの本の中から数冊を選び小さな我が家に迎え入れる。
そんな日々だって悪くない。
ある日のバイトの帰り道
いつもの道を自転車で通る、名前のないお弁当屋はこの時間は閉店作業中だろう。
年老いた夫婦は、二人で小さなショウウインドウのガラスを拭いたり、洗い物をしている。
「あの、もう注文出来ませんか?」
無愛想なおばあさんは
「まだ大丈夫ですよ」
メニューを見る
のり弁当440円
トンカツ弁当650円
日替わり弁当600円
僕の財布には1000円と数枚の小銭しか入っていないのはさっきコンビニで缶コーヒーを買う時から分かっている。
バイトの給料日まではあと1週間
それまではこれが最後の晩餐なのだ。
「のり弁当1つ下さい」
無愛想なおばあさんは頷き奥の厨房へ行く
やがて緑色の薄っぺらな紙に包まれた弁当が僕の前に置かれ
小さな手提げ袋に割り箸と共に入れられる。
1000円からお釣りを貰い
小さくありがとうございますと声を掛ける
無愛想なおばあさんの後ろから「毎度あり」とにこやかに笑うおじいさんの声に見送られ住み慣れた部屋に帰る
僕の部屋には2つの本棚があり、そこにはもうほとんど新入りの本が入るスペースはない。
「なんか考えないとな」
電子ケトルはカチッとお湯の沸いたことを知らせる。
実家から送られてくるほうじ茶を入れる。
香ばしい香りは山あいの実家のことを思い出させる。
テーブルに置いた包みを開ける
シャケ弁当と間違ってる?
そのお弁当には海苔の上に大きなシャケの塩焼き、ちくわのてんぷら、きんぴらごぼうが乗っていた。
大きなシャケは程よい塩気で美味い、ちくわのてんぷらも揚げたてでおいしいそして感激したのはきんぴらごぼう、大きめにささがきされたごぼうはコンビニの弁当に入ったそれとはまったく違う手作りの味だった。
それを食べていると泣けてきた。
何故かわからない涙を流しながらのり弁当を食べた。
「家に帰ろう」
卒業にはあと2年ある、それからの人生をこの都会で暮らすには僕はちっぽけだ、「家に帰ろう」
もう一度つぶやいてお弁当のなきがらをゴミ箱に入れた。
僕は毎回のり弁当を注文する。
お財布に1万円札が入っている日もこのお弁当を注文する。
「いつもありがとうございます」
無愛想なおばあさんに初めて言葉をかけられた。
僕の未来はきっと明るい。
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