第21話 奴

まだ私はお兄さんの名前も知りません。

お兄さんにはたくさん嘘をつきました。


お兄さんとしてから、あの人と一緒にいるのが面倒になりました。

本当は日曜の夜に会う予定があったのですが、お兄さんと土曜日に夜更かししたから体が疲れています。それに、肩や首元にキスマークが夥しくつけられていました。

確実に浮気だとばれます。


あの人との約束を蹴るともちろんあの人は怒りました。私は疲れました。


結局だめでした。

あの人とは別れました。



11月も下旬に差し掛かり、私はお兄さんのことを考えていました。

そんな時、大学のサークルの人が「失恋した」とLINEを寄越しました。連絡が来て三日後に奴と飲むことにしました。

失恋の話を聞いているうちに、私は自分の今までの自堕落な性生活をぽつぽつと話しました。

奴は自称「ほぼ童貞」です。やれそうな子と大学一年生の時に一度したことあるだけで、それからは2年経っています。


奴の失恋話を上回る話をしたので、奴は怒りました。また、たくさん凹んで項垂れていました。

私は項垂れる奴の背中を摩っていました。



「お前よくないぞ」



奴はしきりにそう言いました。


「やめてくれ」「そんな目でこっちを見るな」


たくさん奴は言葉で私を拒絶しました。



私は困る奴にキスをしました。



「おまえほんとうによくないぞ」



そう言った奴の顔を忘れられません。


奴は帰り際、「今日はパンツのゴムがだるんだるんだから!!」と言ってきました。

そこまでするつもりはなかったので笑って聞き流しました。

また、奴が「お前は俺とどこまでできる?」と聞いてきた時、その愚かさに呆れました。



家に帰り、LINEを開くとお兄さんから「誰と飲んだの?」とLINEが入っていました。

「友達が失恋したからその話聞いて慰めてた」とだけ言いました。

お兄さんはきっと女友達と飲んだと思ったのかもしれません。




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