第9話 崖から下を見る

あの人と会いました。

あの人はやはり顔が端正でした。

8時半に待ち合わせして、ご飯を食べ終わったのが10時半くらい。


あの人は少食で、全然食べませんでした。

少しお酒も入り、あの人と上野公園を散歩しました。

何かのタイミングで、手を繋ぎ、私はあの人に「終電は何時?」と聞きました。

あの人は「まだ一緒にいたい」の一点張りでした。

その時はすでに、11時半を回っていました。

この人は、埼玉の人だから、決して近くはありません。


結局、私とあの人は鶯谷の方まで歩き、ホテルで一泊しました。


もちろん、そういうことをしました。

12時から、朝の8時まで。

ずっとお話をしたり、そういうことをしたり、二人の世界にいました。


あの人は、遊び人でした。サラリーマンでもなく、芸人をしているそうです。

他に女の人がいることも、嘘をつかれたことも、悲しくなかったといえば嘘になります。

あの人に惹かれていたから。


あの人は何度も好きと言ってくれました。

本当に好きかどうかは知りません。


私は自分にも他人にも期待しないことにしました。


私はあの人の「好き」に答えることがまだできません。

今、あの人という崖の上に立ち、下をのぞいています。

落ちるかどうかはまだ分かりません。

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