第4話 あの人

あの人はさらに訳の分からない人でした。

あの人はマッチングアプリで顔を見る限り、色黒で二重幅の広い、端正な顔つきをした人でした。


LINEは交換したものの、全くやりとりがなく、LINEを交換して3日後くらいに急に「来週の月曜の夜に電話できますか?」とメッセージが送られてきました。

断る理由もなく、電話をしました。


写真の印象から、あの人は寡黙で落ち着いている人だと思っていました。話してみると、よく言えば賑やか、悪く言えば「うるさいな」と思うくらいずっと口が動く人でした。


あの人は思ったことも全部声に出してしまう人でした。

私が何か話すと、全て拾ってそこから話を広げて永遠に話せる人です。


電話をする回数が増える毎に、「うるさいな今日も」と思いつつ、あの人の為人を知っていき、どこか惹かれていきました。


私はあの人に「もう一人、あのアプリで知り合って連絡をしている人がいます。今度会う予定もあります。」と伝えました。

あの人は「その人より俺とたくさん会ってください」と言ってくれました。


私はあの人が気になりました。



私は人によく「チョロい」と言われます。

正直、過去2年間の恋愛は「好きって言われたから好きな気がしてきた」「あれ、私に気があるのかもしれない、私もそうなのかもしれない」という気持ちだけで成立させ、破滅させていました。

もう退廃的な恋愛はしたくありません。

結局好きではない男に抱かれるのも嫌です。


私は恋愛という言葉がわからないのです。

私が人と付き合ってみたいと思うのは、崖から下を覗いてみたいという気持ちと同じなら、私は何度も崖から下を覗きました。

覗いてはその景色を受け入れられず、崖から落ちることは有りませんでした。

一度だけ落ちたのは、高校の時の彼にだけです。


今度はきっと、あなたかあの人に恋をします。

きっと恋をするだろうなという気持ちがある時点で、「あの崖を覗いてみようかな」と思っているのだと思います。

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