《ザコタ男爵》

チンピラ達から聞き出した名前はザコタ男爵。その男爵の部下がこのチンピラ達に接触してきたらしい。


「そのザコタ男爵ってのはどんな人物なんだ?あんたなら知ってるんだろ?」


チンピラ達を部屋から出し、俺達はボスに男爵について尋ねる。


「ええ。ザコタ男爵は一応この街の領主にあたる男です。ですが、領主としては無能でこの街の運営をしているのは息子のカイン様。ザコタ男爵はかつて子爵だった父親の後をついで別の街の領主をやっていたみたいですが不祥事を起こして2年程前にランドにやって来た人物です。」


そうか。けど、何でその男爵が孤児院を狙うんだ?孤児院を潰して何か意味があるのか?


「なあ。孤児院をその男爵が狙う理由は何か分からないか?」


俺がそう質問するも、


「いえ。特に理由は分かりません。そもそも、孤児院を潰せば孤児は路頭に迷い行き場を無くします。そうなれば待っているのは死だけ。ザコタ男爵は中央への返り咲きを狙っていると聞いています。そんな中で自分の評価を下げる様な真似をして何を考えているのか。」


そう言って腕を組んで考えるボス。考えても分からないか。


「わかった。俺達はもう行く。もし、何か分かれば孤児院に知らせに来てくれると助かる。」


俺がそう言って立ち上がるとアンナも立ち上がる。


「わかりました。こちらでも調べてみるので何か分かれば孤児院に知らせに行きましょう。それと、衛兵所を尋ねてみるのも良いでしょう。あそこの隊長はカイン様と仲が良いらしいので何か分かるかも。」


俺達が立ち去る際にボスがそんな事を教えてくれる。隊長ってフォンさんの事だよな?


俺とアンナはそのまま孤児院に戻るとダントさんに分かった事を教える。今回は子供達のいない院長室で話す。


「なるほど。ザコタ男爵が裏にいたのか。まさか、あの子が孤児院にいるのがバレたのか?いや、十分注意はしたしバレてはいない筈。だとすれば。」


俺達の話を聞いたダントさんは一人で考え込んでしまう。


「あのダントさん?大丈夫ですか?」


アンナがそんなダントさんに声をかけるとハッとしたダントさんが顔をあげる。


「ああ、すまない。ちょっと考え事をしてしまった。まさか貴族が裏にいるなんてな。だが、ザコタ男爵も表だって何かをしてくるとは考えられないし今は無視して視察団が来たときにでも訴えれば何とかなるだろう。君達は心配しなくていい。」


ダントさんはそう言って笑うが何かを隠しているのは分かる。俺達に迷惑はかけたくないんだろう。けど、アンナが旅立つ為には孤児院の問題を解決しないと駄目なんだよな。


「ダントさん。何か隠してるでしょ?」


俺がそんな事を考えているとアンナがダントを真っ直ぐに見つめている。


「いや、何も隠してなんかないよ。さて、この話はここで終わりだ。そろそろ子供達にご飯を作らないといけないからね。」


そう言って席を立って部屋を後にしてしまう。


「仕方ない。今の様子じゃ話すつもりはないんだろう。とりあえず、俺は宿に帰るけど明日は衛兵所に行ってみよう。何か分かるかもしれないしな。明日の昼頃になったら宿に来てくれ。」


俺はアンナにそう言うと孤児院を後にする。まだランドに居る事になりそうだな。


翌日、アンナが宿へと迎えに来た。


「さて、衛兵所を訪ねてみよう。アンナは場所は知ってるか?」


俺がそう言うとアンナが頷いて先に歩き出す。衛兵所は貴族街の方にあるらしい。


しばらく歩くと衛兵所らしき場所が見えてくる。前に衛兵が立っていたので声をかけると中で話をするように言われる。


「失礼します。隊長さんとお会いしたいんですが?」


俺が奥へと声をかけると誰かが出てくる。


「隊長に会いたいって約束してるんですか?」


そう言って奥から出てきたのは街に入る際に会ったゲイツだった。ゲイツは俺を見るなり態度を変える。


「ふん。獣人か。今は隊長はいないぞ?分かったら早く出ていけ。獣臭くて堪らん。シッ!シッ!」


そう言って手を振るゲイツ。アンナがその態度に文句を付けようとするが俺はアンナの手を引っ張り黙って出て行く。


「何なのあの態度!それにケントも何で黙って言う通りにするのよ?」


しばらく歩いた俺達は誰も居ない所で止まる。するとアンナが我慢できないのか文句を言う。


「あのゲイツって奴は何を言っても無駄だよ。アイツがいるのを忘れてた俺が悪いんだ。最初から、この姿で行けば良かったよ。」


俺はそう言って街に入った時の姿に変わる。


「その姿は?」


アンナが姿を変えた俺にそう聞いてくる。俺は街に入る際にこの姿でゲイツに会った事を説明して今度は一人で衛兵所へと向かった。


「失礼します。フォンさんは居ますか?」


するとゲイツが出てくる。ゲイツが俺を覚えてるかは不明だけど、この姿でなら邪険にされる事もないだろう。


「隊長の知り合いの方ですか?隊長なら今は見周りに出ていて居ませんよ。」


どうやらゲイツは俺の事を覚えてないみたいだ。俺は衛兵所を出てアンナの待つ場所へと戻る。


「隊長は見周りに出ていて居ないらしい。どうする?探しに行ってみるか?」


俺がそう言うとアンナも、


「そうだね。待ってても何時戻ってくるか分からないし探してみよう。」


そう言って見周りの人が行きそうな場所を教えてくれるアンナ。そこから帰り道を予想して逆走していく。まあ、逆走といっても歩くんだけどね。


「ねえ。逆走していくのは良いけど、隊長さんが誰か知ってるの?私は分からないよ?」


歩きながらアンナがそんな事を言うが今さらだな。


「大丈夫。隊長のフォンさんなら俺が知ってる。」


そうして、歩く事しばらく。前から数人の衛兵が歩いてくる。その中には最初の頃に会ったフォンさんもいる。


「アンナ、あの人がフォンさんだ。俺が声をかけてくるから待っててくれ。」


俺はそう言って衛兵達に近付く。すると俺に気付いた衛兵達が立ち止まって誰何してくる。


「止まれ。誰だお前、俺達に何か用か?」


すると、俺に気付いたフォンさんが前に出てくる。


「ケントじゃないか。久しぶりだな?全然見かけなかったから既に街から移動したと思ってたぞ?」


そうか。俺は見かけてたけどフォンさんは獣人だって事を知らないからな。


「所で、俺に何か用なのか?それに後ろにいる彼女も連れだろ?」


そう言ってフォンさんが俺の後ろを見る。


「ええ、実はお聞きしたい事があるんですが。」


俺はそう言って彼の後ろにいる衛兵達に目を向ける。すると俺の視線に気付いたフォンさんが衛兵達に指示出す。


「お前達。俺はこの2人と話してから戻るから先に仕事に戻れ。」


フォンさんが指示を出すと、先に衛兵所に戻っていく部下の人達。


「それで?俺に聞きたい事ってのは?確か、そっちの嬢ちゃんは孤児院で働いている子だよな?」


部下達が去っていくのを見届けたフォンさんがアンナを見てそう聞いてくる。


「ええ、彼女の名前はアンナ。今は孤児院でお世話になっています。実は、その孤児院の事で問題がありまして。」


俺がそう言うとアンナが話に入ってくる。


「ザコタ男爵って人が孤児院を潰そうとしてるんです。息子さんと仲が良いんですよね?どういう事か聞いて貰えませんか?んぐ!?」


アンナが大きな声でそう言うと素早い動きでアンナの口を塞ぐフォンさん。


「おいおい!?いきなり大声で何て事を叫ぶんだよ。ちょっと着いて来い。」


フォンさんはアンナを引っ張り誰も居ない路地へと入って行く。俺も黙って後に着いて行く。


「さて、一体どういう事だ?いきなり街中で貴族を批判するなんて。俺は確かにカインとは仲が良いが仕事は持ち込むつもりはないんだ。だが、男爵が孤児院を潰そうとしてるなんて聞かされちゃ無視する訳にもいかない。教えてくれ。」


そう言われて俺達は先日の出来事を説明する。


「なるほど、男爵がそんな事を。分かった、カインに聞いてみよう。数日時間をくれ。」


そう言ってフォンさんは立ち去って行く。まさか、今回の出来事があんな大きな事件になるなんて、この時は思いもしなかった。




「おい!まだガキは見つからないのか?何をやっている!」


男が目の前に跪く部下へと怒鳴りつける。


「申し訳ありません。目星はついているのですが、なかなか姿を確認する事が出来ず。」


部下の言葉に更に怒鳴り返す男。


「言い訳はするな。力ずくで構わん。ガキは発見しだい殺せ。関わった者も全員だ!良いな!」


男がそう言うと部下は頭を下げて部屋を出ていく。


「あのガキが生きているとまずい。儂は必ず中央に返り咲いて、あの時、儂を見下した奴等を見返してやるのだ。その為ならどんな事でもしてやる。」




男はそう言って椅子に座る。濁った瞳で都市がある方向を睨み付けながら。

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