《ボスの事情と貴族の暗躍》
男に連れられて歩くこと数分。男はスラム街にある一軒の家の中に入っていく。
「こっちだ。着いてこい。」
男は家の中の更に奥に進んでいく。家の中には数人の男が武器を持って立っている。
「ここから下に降りるぞ。」
男は奥の部屋の床を剥がすと下から現れた扉を開き中へと案内する。男の後を降りていくと下水が流れており、そこには地下に小さな小屋が沢山建っている。
どうやら地上じゃなく地下がコイツらの拠点らしい。チンピラ以外にも子供や女性など、多くのスラムの住人であろう人達がいる。
「この人達はここで暮らしてるのかな?」
アンナがキョロキョロと周りを見渡して言葉をもらす。
「こんな場所に人がいて驚いたか?地上だと俺達は邪魔者扱いだからな。ボスが地下に町を作っちまったのさ!」
男は誇らしげにボスの事を話している。
「ボスは凄い人でな。元は冒険者だったらしいが自分がスラム出身だったからスラムの住人を気にかけてくれていたんだ。スラムの住人が多くなってきて貴族の奴等がスラム街を潰そうとしたもんだからボスは住人の一部を地下に逃がしてスラムの取り潰しを防いでくれたんだよ。」
だから、俺達はボスには絶対逆らわないんだ。
そう言って俺達を連れて地下を奥へと進んでいく男だが、やがて他より少し大きな建物の前で立ち止まる。
「ここだ。この中でボスが待っている。俺が先に入ってボスに報告してくるから少し待っていろ。」
男はそう言って中に入っていく。しばらくすると男以外にも複数の人間が中から出てくる。
「ボスが中で待ってる。2人とも中に入ってくれ。」
男に言われてアンナと顔を見合わせる。アンナは俺に従うらしく俺の判断を待っている。俺は一度頷き中に入る。
「奥の部屋にボスがいる。中にいるのは2人だけだがボスに何かしたら地下にいる全員が敵になるって思え。」
中に入る際に俺達を案内した男がそう声をかけてくる。
中に入り奥の部屋に向かう。部屋の前に立つと扉が勝手に開く。
「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ中へ!」
中から男が現れて中に促してくれる。この人、かなり強いな。Cランク位の強さだと思う。アンナは突然現れた男に驚いている。
俺は気配で気づいてたけどアンナには突然扉が開いて男がいきなり現れたように感じたはずだ。
「さあ、こちらの席に座ってお待ちください。すぐにボスが来ますので!」
男が微笑みながら席に促してくれるが俺は男の正体に気がついている。
「どうしました?席に座ってお待ちください!」
そう言って再び俺達に座るように促すスラムのボス。
「ボスはあんただよな?隣の部屋にいる男はただの部下だろ?」
「え?」
俺が男にそう言うとアンナが驚いた声をあげる。逆に男の方はというと、
「ほう。良くわかりましたね?やっぱり噂通りの実力がありそうだね。黒猫のケントくん?」
男が俺の名前を呟いた瞬間、俺は瞬時に男に詰め寄り剣を突き付ける!
「何で俺の正体を知ってる?どうして分かった?」
俺が問い質すとボスは手をあげて、
「まあ、とりあえず座って話をしようじゃないか。ほら、質問には答えるからさ。」
ボスはそう言って俺達の向かい側のソファーに座る。
「仕方ない。アンナ、俺達も座ろう!」
俺は事態についてこれず固まっているアンナに声をかけて席に座る。その際、魔法を解除して元の姿に戻る。
「さて、先に何で私がボスだと気付いたのか教えてくれるかな?一応、私の正体は仲間以外には極一部を除いて秘密なんだけどね?」
向かい合う中、ボスが先に質問してくる。
「別に簡単な話だよ。あんたより強い気配がないからな。ボスが弱いわけないだろ?」
俺がそう言うと、ボスは納得している。
「なるほど。気配探知が使えるなら簡単に気づけるか。まあ、気配探知を使える奴も少ないんだけどね。」
ボスはそう言って笑っている。
「次は俺の番だ。何で俺の正体に気付いたのか教えてくれ。かなり気をつけていたんだけどな?何処か俺だと分かる所でもあったか?」
流石に、簡単に正体がバレるのは困るし原因は知っておきたい。
「こっちも簡単な話だよ。君がスラムに来る前から見張ってたんだよ。君がギルドで騒ぎを起こした後からね!」
は?ギルドで騒ぎを起こした後から見張ってた?どういうこと?
「どういうことだ?騒ぎって?」
別にギルドで騒ぎを起こした覚えないんだけど?
「ほら、君がFランクの冒険者を倒した事があったでしょ?あの時、私も実はギルドにいてね。レイモンドが認めた獣人族の君に興味があったんだ。それで部下の一人に見張って貰ってたら君が変装してスラムに来たから丁度良いと思って呼んだんだよ。」
なるほど。最初からバレてたのなら仕方がないか。普段は殺気がなければ気配探知なんて使わないから気付かなかった。
「なるほど。じゃあ、本題だ!何で俺達を呼んだ?見張ってたなら俺があんたの部下を探しに来たってのも知ってるんだろ?」
俺がそう言うとボスの男は困った顔になる。
「そう。君達を呼んだのは孤児院での事を知ったからだよ。先に言っておくが私は孤児院への嫌がらせには関与してないよ。スラムの住人にとっては孤児院とダントは恩人であって決して迷惑をかけて良い相手じゃないからね。」
うーん。どうやら嘘ではなさそうだな。最後の方の言葉にはかなりの怒りを感じた。
「あの、ダントさんや孤児院が恩人ってどういうことですか?」
ここまで黙って話を聞いていたアンナが質問する。
「まあ、恩人と言っても勝手に恩を感じているだけで直接の関係は何もないんだけどね。ただ孤児院にはスラム出身の子供もいるし、その子達が立派になっていくのはスラムの大人達には嬉しい事なんだよ!もし、孤児院に迷惑をかける奴がいたら俺は容赦しないさ」
なるほど。スラムの子供の将来の為に孤児院は重要な場所って事か。
「なら、何で部下のアイツ等は孤児院に嫌がらせなんてしてんだ?アイツ等もスラムの住人なんだろ?」
俺がそう聞くと、ボスはため息をついてから、
「確かにそうだが、アイツ等は別の町からの流れもんでね。孤児院に対して何も感じてないから金を貰ってやってるんだろね。今、部下に探させているから待っててくれるかな!」
そう言って俺達を置いて部屋を出ていく。
「どうするのケント?あの人が本当に味方か分かんないわよ?」
ボスが出ていくとアンナが質問してくる。
「別に大丈夫だと思うぞ?ダントさんもスラムの住人とは上手くいっていたって言ってたしボスの話とも違和感はなさそうだ。」
俺がそう言うとアンナも納得したらしく二人でボスが戻るのを待つ。少ししてボスが戻ってくる。
「やあ。お茶を持ってきたからどうぞ!」
そう言って俺達にお茶を差し出すボス。
「ボス自らお茶を運ぶのか?普通なら部下にやらせるんじゃないのか?」
俺がそう言うとボスは、
「だって、正体知られたくないんでしょ?わざわざ変装してきたんだし、君達の事を知ってるのは私ともう一人だけ。他には知らせてないよ!」
ありがたいな。まあ、別にバレても良いんだが隠しといてくれるならありがたい。
「さて、そろそろ部下がアイツ等を連れてくるから来たら君達は一度姿を隠してくれるかな!」
ボスがそう言ったところで部屋のドアがノックされる。
「ボス。連れてきました!」
どうやらアイツ等が来たらしい!俺達は隣の部屋の陰に隠れるよう言われ隠れる。
「よし。入れ!」
ボスが許可を出すと孤児院にいたチンピラ達が入ってくる。
「失礼しやす。俺達に用があるって話しっすけど何の用ですか?」
入って来たチンピラ達は何で呼ばれたか知らないらしく戸惑っている。
「まずはそこに座れや!早くしろ!」
ボスがチンピラ達に怒鳴り付ける。俺達には見せなかった顔だな。まあ、仕切るためには必要なんだろ。
「は、はい。失礼します!」
ボスに怒鳴られたチンピラ達は慌てて席に着く。
「さて、てめえ等。何で呼ばれたか分かるか?」
ボスにそう聞かれても心当たりがないとばかりに首を振るチンピラ達。
「てめえ等。最近、街にある孤児院に迷惑かけてやがるだろ?一体、何のつもりだ?ああ?」
ボスが問い詰めるとチンピラ達は、
「い、いや。俺達そんな事してないですよ?何かの間違いですって!」
そんな事を言って嘘をついた。ボスの額に筋が浮かぶ。
「嘘つかないで!私達の事は知ってるでしょ!」
チンピラ達の嘘にアンナが飛び出してしまう。止めようとした俺も見つかってしまう。
「て、てめえ等は?何でここに?」
俺達の事に気がついたチンピラ達の顔から血の気が引く。
「俺が呼んだんだよ!てめえ等、俺が孤児院に迷惑をかけるのを禁止してるの知らないとは言わせねぇぞ?」
ボスがそう言うとチンピラ達は言い訳を始める。
「いや、だって孤児院なんか別に気にすることないじゃないですか?この仕事が上手くいけば大きな金になるんですよ?」
そんな事を言った瞬間、チンピラにボスからの一撃が入る。
「ふざけてんじゃねえ!あそこはスラムの住人の恩人だって仲間に入った時に聞いたはずだ。そこに手を出すって事は俺に喧嘩を売ってるって事でいいんだな?」
ボスがそう言うと、チンピラ達は土下座して謝り始める。
「すみませんでした!別にボスに喧嘩を売るつもりなんてありません。孤児院の件からは手を引くんで許して下さい!」
そう言って謝るチンピラ達。するとボスは俺達の方を向き、
「どうする?俺は二人に任せるが?」
そう言ってくる。別に孤児院への嫌がらせがなくなるならチンピラ達はどうでも良いんだがな。
「別にコイツ等の事はどうでもいいけど、誰に頼まれたのかだけ教えて欲しいんだが。」
俺がそう言うとボスがチンピラ達に問い質す。
「は、はい。俺達に依頼してきたのは北の貴族街のザコタ男爵の所の人間でした。後をつけたので間違いないです!」
どうやら裏に貴族がいるらしい!
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