《獣人族の少女ハンナ》
「そういえば、あの子はどうしてるかな。」
ギルドを出た俺は、入ったときの事を思い出す。受付で揉めてしまっていた兎人の少女。
「探して様子を見に行ってみるか!確かスラム街の方だと言ってたよな?誰かに聞けば分かるよな。」
彼女を探すため一度、商店街の方に行ってみる。すると、
「お!さっきの獣人の兄ちゃん。ギルドでの用は終わったのか?なら今度は買っていってくれよ。」
ギルドに行く前に話したハンバーグを売ってる屋台のおじさんに声をかけられる。丁度良い。
「じゃあ、1つだけ。」
「あいよ。ついでにパンもどうだい?うちのは柔らかいぞ?」
さすが商売人だな。客が来たなら逃げないうちに別の物も売り込むのは良い手口だ!
「じゃあ、それも!」
「あいよ。じゃあ、全部で銀貨3枚だが良いか?」
銀貨3枚か。少し高いな。でもこの世界にない料理だろうし高いのは仕方ないな!俺は"
「お!兄ちゃん"
そんな事を言ってくるおじさん。1日銀貨5枚が高いのか安いのか知らないがやる気はない。俺は一応冒険者だ。
「いえ、冒険者になったばかりなので結構です。」
「そうかい、残念だ!ほれ、ハンバーグとパンだ!ハンバーグをパンに挟んで食べると美味しいぞ」
そう言ってハンバーグとパンを渡してくれる。なるほど、ハンバーガーみたいにするのか。考えてるな!
「ところで、すみませんがスラム街の場所を教えて欲しいんですが?」
俺はハンバーガーもどきを食べながら、スラム街の場所を聞いてみる。
「何だ兄ちゃん。スラム街なんて行くのか?やめとけ、やめとけ。あんな治安の悪い場所に行ったら獣人族は絶対絡まれるぞ?」
そう言って心配してくれるおじさん。絡まれるか。なら、急いで行った方が良さそうだな。彼女にも何かあったかもしれない。
「ありがとうございます。ですが用がありますので教えて貰えますか?」
そう言ってもう一度頼んでみる。
「わかったよ。なら、教えてやる。スラム街は街の南側だ。街の南側の壁沿いらへんの通りがスラム街になってんよ!」
「ありがとうございます。ハンバーグ美味しかったです!」
「おう。また来てくるよな!」
そう言って見送ってくれるおじさん。教えてもらった方向に進んでみる。
「確かに商店街の方と比べると店は少ないな。」
街の中心である商店街と比べると店もまばらで南に行くほど少なくなってきている。
とにかく南に歩いていくと、スラム街っぽい場所に着く。かなり汚なく、並んでいる家はかなりボロい。中には屋根もない家がいくつかある。暮らしている人達も汚れていて荒んだ表情をしている。さすがに、ここじゃ商売は出来ないな。
「ちょっと来すぎたかな?」
俺がそう考えていると少し遠くの方から声が聞こえてくる。
「おい。ここで店を出してるならショバ代を払いな!」
「何でよ?ここはギルドに紹介された場所よ!問題はないはずだわ」
「うるせえ。ここら辺は俺達の縄張りだ。邪魔されるのが嫌なら金を払いな!金貨10枚で店を出す事を許可してやんよ!」
そんな声が聞こえてくる。俺は来た道を少し戻ってみる。すると東に入っていく道で騒ぎが起こっている!
数人の男達が露店を囲んで店の主人に絡んでいるようだ。俺は近くの家の壁に隠れながら覗いてみる。
「何であんたら何かに金貨10枚も払わなくちゃ行けないのよ。バカじゃないの?」
そう言って男達に怒鳴る店主。この声と強気な感じ。俺はもう少し近づいて店主の顔を確認する。
「やっぱりか。何処でも騒ぎに巻き込まれる子だな!」
案の定、絡まれていたのは、あの兎人の少女。ガラの悪そうな男達に囲まれても一歩も引かない。
「うるせえ。いいから金を払えば良いんだよ!それとも拐って奴隷商にでも売ってやろうか。お前、結構良い体してるし、変態の貴族なら、高値で買ってくれるしな!」
少女に向かって、そんな事を言う男達。その言葉に怒ったのか彼女も負けじと言い返す。
「別にそんな脅し怖くないわよ!てか、あんたら臭いのよ!他の客の迷惑だから早く、き・え・て!」
そんな言葉を返している。少ないが一応、店もあるから他の店には客がいる。その周りの人達は彼女の言葉に笑いを堪えている。
「て、てめえ。どうやら痛い目に遭いたいみたいだな。」
周りの様子に気が付いた男達の1人が彼女に掴みかかる。
「きゃあっ!」
男に捕まれて短く悲鳴をあげる少女。
「まずいな!」
俺は彼女達の間に入り込み男達を睨み付ける!
「何だてめぇ?」「え?誰?」
同時にそんな事を言う彼女達。
「これ以上何かするつもりなら俺が相手になるぞ?」
俺がそう言うと、
「なめてんのか、獣人族がイキがってんじゃねぇ!」
そう言ってナイフを取り出して襲いかかってくる男達。鑑定した所コイツらはレベル10もないFランク以下のチンピラだ。俺は飛び出して来た1人のナイフを奪い、男をひっくり返してナイフを突きつける。
「これ以上、やるなら手加減はしない!どうする?」
俺が周りのチンピラを睨みながら聞くと、
「い、いや、もういい。悪かった。俺達はもういなくなるから勘弁してくれ!」
一番レベルの高いリーダーらしき男がそう言ってくる。俺はナイフを突きつけていた男を放しナイフを足元に投げる。
落ちたナイフを拾って男達が逃げていく。すると後ろから声がかかる。
「あ、あの。ありがとう!」
そう言われて後ろを振り向く。彼女にとっては今の俺は初対面だ。前の時のような刺々しい感じはない。
「いや、気にするな!それより、何を考えてるんだ?ここは人族の街だ。人族相手にあんな態度を取ってどうなるかわかんないのか?」
この少女は危なっかしすぎる。こんな態度を毎回取っていたら本当に危険な事になりかねない。
彼女は妹の朱莉と同い年位に見える。獣人族はエルフ以外の他の種族より若く見えると聞いている。別に朱莉と同い年って訳ではないのだろう。でも、少女にはかわりない。
「俺が助けなければ、どうなっていた?奴隷になるだけなら、生きてるだけ良い。だが、下手したら死んでたぞ?死んだらどうするつもりだ?」
俺が彼女に向かって怒りながら言うと、彼女はこっちを見て、
「そんなの分かってるわよ。でも私は引くつもりは無いわ。相手が人族だから何よ?それが逃げる理由になるわけ?私は何も悪いことはしてないわ!獣人族だからって差別はされたくない。私は私よ!他の誰にも見下されたくはないわ。」
そう叫ぶ。ああ、わかった。わかったよ。彼女は戦っているんだ!たった1人で獣人族に対する差別と戦っている。こんな少女が。
俺は少し勘違いしていた!彼女はただ無鉄砲なだけなのかと思った。でも違うみたいだ。彼女は彼女なりの信念を持っている。なら、それを止める権利は俺にはない。俺はただ獣人の姿をしているだけだから。
「わかった!もう何も言わない。」
俺がそう言うと彼女は少し黙ってから、
「でも、助けてくれた事にはお礼を言うわ。本当にありがとう!」
そう言って頭を下げる。
「いや気にしなくて良い。同じ獣人族だ。」
俺がそう言うと彼女は頭を上げて、
「私の名前はハンナよ。見ての通り兎人だわ!あなたは?」
笑顔で名前を聞いてくる。
「ケントだ。俺も見ての通り、猫人だ。よろしく!」
俺がそう言って手を差し出すと彼女は驚いている。あれ?握手を知らないのか?だが、少しすると
「ケントね!こちらこそよろしく。あなた強いのね?」
そう言って握手をかわす。良かった、知ってた。でも、じゃあ何で驚いてたんだ?
「さっきは何で驚いてたんだ?」
俺がそう聞くと、
「だって、握手って人族のやり方でしょ?私は別に気にしないけど普通の獣人族なら嫌がるわよ。」
そんな事を言ってくる。
『そうなの?』
〈はい。普通の獣人族なら嫌がります。ちなみに、獣人族に握手のような挨拶はありません。ただ言葉を交わすだけです〉
そうなんだ。知らなきゃ普通に握手してたよ。
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