10万字到達記念おまけ;ひれつなわなだた
**ぴんぽんぱんぽーん。いつもお読みいただきありがとうございます。ただいま本編におきまして過去話をお届けしているこのタイミングではございますが、10万文字突破を記念しまして唐突におまけ小話ぶっこみます。よろしければ適当にお楽しみください。ぽんぱんぴんぺーん**
――――
「俺、思ったんです」
突然タツミがなんか言い出した。
クヅキは刺繍の手を止めずに「なにを?」と聞き返した。
「……シャワー。逃げるんだったら、なにも外に逃げなくったって。応接室へ逃げ込めば、よくないですか?」
応接室は他人に危害を加えられない絶対安全圏。
タツミにその仕組みはよく分からないのだが、ともかくクヅキがそう言うのだから、だったらそこへ逃げ込めばいいんじゃないか、と思った。
「お前な。それを俺が思いつかないと思うのか?」
「……ですよね。ダメ、だったんですか?」
「いやまぁ。確かにあそこなら、ライドウも力業では捕まえられないからな」
無理矢理押さえ込もうとすると、その作用はライドウの方へ返る。そのすきに逃げればよく、不毛な追いかけっこになった。
「それでも俺は逃げられればいいわけだから、いいんだけども」
ライドウがキレた。
応接室には戸口が二つある。階段に繋がる廊下側の扉。ライドウの部屋に直接繋がる扉。
ライドウは、自室側の扉を閉じた。
立て籠るつもりだったクヅキは、別に両方閉じられたところで問題ない、と高をくくっていた。
しかし片方の逃げ場をふさいだライドウは、開いた扉の向こう、廊下の先にあろうことかジャムの瓶を置いた。
「いくらなんでもそんな見え透いたワナにかかると思うか?」
「……はあ、まあ、かからない、ですよね」
ネズミ罠レベルである。
あるいは、ゴキブリ○イホイ。
そう思うと、ものすごく頭にきた。
ライドウはクヅキをなんだと思っているのか。
そして。
イライラしたら甘いものがほしくなってきた。
とはいえ、さすがにジャムに飛び付いて捕まるような愚は、もちろんおかさない。
我慢した。
舐めに行けないジャムにさらにイライラが募る。イライラが高まるほどジャムが舐めたくなる。
が、それではライドウの思う壺だ。イライラする。
クヅキはうろうろと部屋の中を歩き回った。
ちらりと見ると、廊下には美味しそうなジャムがある。
舐められないのに。甘そうなのに。目の前にあるのに。イライラしてるのに。なんで舐められないのか。甘いの口に入れたい。そうしたら絶対イライラも治まる。きっと美味しい。幸せになる。ちょっと舐めるだけでいい。甘い。ジャム。ちょっとだけ。
気づいたら、ジャムの瓶の目の前でライドウに取っ捕まっていた。
「おかしいよなぁ」
「……おかしい、ですね」
しかもライドウは一口もジャムを舐めさせてはくれず、問答無用でシャワーに連れていかれた。
非道なワナだった。
「……ってことが三回あって、だからたぶんあの応接室に立て籠ってもムダなんだよ」
「なる、ほど」
タツミは、曖昧な笑みでうなずいた。
この人も大概バカだよなぁ。と思わないでもなかった。
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