第14話 優しい女の子

 その日以降、高校三年生の今日までずっと、真理はあの瓶底眼鏡をかけ続けている。律儀にも、そうすることで私の気持ちが分かると本気で信じて、それを実践している。


 あの眼鏡をかけるようになってから、真理は自分の容姿を気にしなくなった。髪の毛を気にすることもなくなったし、実用的だからと言っていつでも白衣を着るようになった。


 あの見た目のせいで、真理はずっと変な奴だと言われている。


 真理は本来、誰とでも話をすることができる女の子だった。ガリ勉で人見知りだった私とは違い、真理は学校でも友達がたくさんいた。だけど、あの眼鏡をかけ始めてから、少しずつ真理の周りから友人は離れていったのだ。


 真理なら、私なんかよりもよっぽど他人と仲良くなれるのに。

 少しだけ、あとほんの少しだけ、自分の見た目のことを気にしたら、そうしたらクラスメイトからも、きちんとした評価を受けることが出来るのに。


 ――あの人だったら平気で猫とか食べそうじゃない。


 そんなこと、言われるような女の子じゃないのに。本当は、好奇心旺盛で、天真爛漫で、心優しい女の子だってことを、クラスメイトに分かってもらうことが出来るのに。


 今、私がかけている赤い眼鏡は、真理が選んでくれたものだ。陰気な性格を悩んでいた私に、「だったらいっそ明るい眼鏡にしたら良いじゃない」と言って選んでくれたのだ。赤は一番遠くまで見える色だから、みんながその目立つ眼鏡を見てるって思ったら注目されることも気にならないでしょ――その言葉に、私は確かに救われたのだ。


 部屋に閉じこもり、背中を丸めて縮こまっていた「ガリ勉の地味子ちゃん」の手を引いて外に連れ出してくれた真理。


 その真理が、教室に入るだけでざわつくほどの変人扱いされている。それが本当に嫌。嫌で嫌でたまらない。


 だから私は、真理が普通の身なりになってくれるまで、もう口を聞いてあげない。

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