第12話 真理からの誘い
「ねえ、数美。明後日のことだけど」
夏祭りを翌々日に控えた金曜日、昼休みに真理が三年D組のクラスまでやってきた。真理と会うのはこの間ケンカ別れして以来だ。真理の姿を見て、クラスメイトが少しざわつく。
「六時三十分には高台にいたいから、六時に出発しよう。数美の家まで迎えに行くよ」
このあいだのケンカを全く気にしていないかのような口調だった。その様子に、却って真理の気遣いを感じる。けれど、私にだって意地がある。母が作ってくれた弁当箱を広げながら、できるだけ冷い口調になるように心がけて、
「私、明後日はほかの方と行くと約束したので、真理とは行きません」
「えっ? ――ええっ!?」
真理はギャグ漫画のキャラクターのように飛び上がった。
「ど、どうして!? 一緒に実験しようって約束したじゃない」
「その後、もう行かないと言ったじゃないですか」
弁当のフタを開ける。真理の顔は見ない。
「真理が私の言うことを聞いてくれないのですから、私も真理に協力なんてしません」
「言うことって、」
「見た目に気を配ってください。ずっとそう言っています」
「でも、だって……」
珍しく、真理がうろたえている。
「祭りなら、一人で行ってください。私はもう約束があるので」
「だ、誰と行くの?」
「塾の皆さんです。来年は皆さんもこの街を出るので、最後の思い出として誘われたんです」
「……でも人混み、数美、苦手でしょ」
真理の手が、もじもじと動いている。
「私も、苦手だと言って逃げ続けるのはやめることにしたんです。とりあえず行動して、ちょっとずつ体を慣らしていこうと思いましたので」
「ご、ごめんなさい」
真理が慌てるように、
「聞く。聞くから。ちゃんと、数美の言うこと聞くから。髪も整えるから。見た目も気にするから。古文の文法もちゃんと覚えるから。ね、言うこと聞くから、一緒に行こうよ」
「その眼鏡も外しますか?」
「この眼鏡は……。この眼鏡だけは、ちょっと、」
真理がうつむいた。分厚い眼鏡の奥で、真理の目が泳いでいる。
「どちらにしても、もう約束してしまいました。私は塾生のみなさんと行きます。あきらめてください」
それだけ言い残して、私は黙々と弁当を食べる。
どれだけ真理が何かを言っても、もう口をきいてあげない。
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