第7話 真理の眼鏡
その翌日。放課後になって教室で私が帰り支度をしていると、話し声が大きな三人組の女に声をかけられた。
「ねえ、円さん」
その三人は、真理と同じE組の生徒だった。顔は見たことあるけれど、話をしたことは一度もない。私はノートをカバンに入れながら、「なんですか?」と答える。
三人組は、それぞれが顔を見合わせて、お前が聞け、お前が聞けと言うように
「合力さんの眼鏡って、
ドキっとした。教科書をカバンに詰めていた私の手が思いがけず止まってしまったのを、三人に気付かれてしまっただろうかと不安になる。ゆっくりと息を吐き、できるだけ平坦な口調を心がけて、
「どうして、そう思うのですか?」
かしましい三人組は口々に話し始めた。
ずっと前からE組で噂になっていた。あんなに太いレンズなのに、よくよく見るとただのガラスのように見えること。普通、
「それで、円さんに聞きに来たんだけど、」
「ね、ね、伊達よね。あれ、本当は度が入ってないよね?」
「あんたひどいよユカ、いくらあの
真理がかけているのは、伊達眼鏡だ。だけど、私はそれを答えることができなかった。いま明言すると、真理はさらに変人扱いされてしまう。
「あれは、目の保護も兼ねているんです」
私は曖昧な表現で濁すことにした。
「真理は理科部なので、薬品が顔にかかったりすることがあって。それに、あの性格なので、いろんなところに飛び込んで怪我をすることもあるので――」
「いや、だから、あれは伊達なんだよね? 度は入ってないんだよね?」
髪を結んだ女が私の顔をのぞき込んだ。
そんなふうに聞かれたら、もう逃れる術なんてない。
三人が去るとき、会話の断片が私の耳に入った。
——やばいでしょ、あいつやっぱ絶対やばいよ、
彼女たちは私に聞かそうと思っているわけではないと思う。けれど、彼女たちのかしましい声はよく響いた。
——やばいでしょ、あいつやっぱ絶対やばいよ、
黙って身支度を済まし、旧校舎へと向かう。頭の中に響き渡る彼女たちの声を何とかかき消そうと思うけれど、そうしようとすればするほど、余計にその声が強くなる。もう泣きたくなる。
ああまた、
私のせいで、真理が変人になっていく。
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