第6話 花火大会の広告
泣き言をいう真理をなんとか勉強させ、二人で旧校舎をでた。
始まった西日の熱を背中に感じながら、私たちは歩いて最寄り駅まで向かった。
駅の構内に入ると、柱に取り付けられた大きな電光掲示板がある。そこに映し出された広告を見て、真理が呟いた。
「……花火大会?」
しまったと思ってももう遅い。真理は目をキラキラと輝かせて、
「ねえ、数美っ。みて、今週末に花火大会があるんだって!」
「行きませんよ」
私は淡々と改札をくぐろうとする。その腕を、ぐいと真理が掴んで、
「年に一度の夏の祭典だよ!? 行くしかないでしょ」
「どうして受験生が夏祭りなんかに行くんですか。夏は受験生の登龍門と呼ばれているんですよ。真理だってまだやることがあるじゃないですか」
「なに言ってるの数美。この長い受験生活で、一日たりとも遊んじゃいけない、なんてことないでしょ。数美だっていつも言ってるじゃない。時間がない、なんて言い訳だって。こういうときこそ、時間を作って息抜きをするべきじゃないの?」
私は言葉に詰まった。確かに、私が真理に説教するときによく使うフレーズだ。
だけど、
「私は人混みが苦手なので、もしも行くなら一人で行ってください」
「もー。数美はいつもこれだもん」
真理が口をとがらせる。
「こういう祭りは行きたくないっていうし。去年も一昨年もそうだったし。花火を見たことないんでしょ?」
「ないですけど、雷と似たようなものでしょう。パッと光って、ドカンと音がする。それと違いがありますか?」
「見たことないのに、よく言えるよ」
「知識として頭に入っています。それでいいじゃないですか」
「なんでよ。実際に見てみないと、その魅力はわからないよ。いまの数美の発言は、写真が見れるから観光地には行かなくてもいいって言ってるようなものじゃない。実際に自分で足を運んで、現地の空気を肌で感じるから、旅行は面白いんでしょ。花火だって同じよ」
それは、たしかにその通りかもしれない、と私も思う。
けれど、一度そう言ってしまった以上、もう後には引けなかった。
「とにかく、私は花火には興味ありません。それよりも、家に帰ったら今日覚えたところをきちんと復習しておいてください。明日確認しますから」
有無を言わせない口調で言うと、むー、と真理がむくれた。
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