やみのえき

 きらきらしていた星空はどこかに消えて、さっきよりも暗い黒に塗りつぶされていた。今度はホームに明かりがついている。ついているけれど。チカチカ、と切れかけの電灯がついているようで、時折真っ黒に塗りつぶされている。

 電車はゆっくりとその駅に停車した。

『やみのえき、やみのえき。乗り換えを希望の方のみ降車ください。それ以外の方はそのままでお願いします』

 私はそっと立ち上がる。乗り換えなんて考えてもいないのに。でも、引き返すならきっとここしかないんだろう。諦めるなら、降りなきゃ。

「ダリア、行かないで」

 クロが切なく鳴く。行って欲しくないと駄々をこねる。クロは機械人形オートマチックドールではあるけど、人型アンドロイドではない。私を無理矢理に引き留める術を持たないのだ。

 ちらりとクロを横目に、扉の前まで。

『お客サマ、乗り換えですか?』

 ―――まだ今なら引き返せる。

「…………いいえ。」

『それではお席へお戻りください』

 あの日々に戻りたくないと泣きわめいたのは自分だったはずなのに。なんで引き返そうとしたのか。ホームの奥にある暗闇から手が伸びて、こちらに手招きしているように見えたからだろうか。あの闇にのまれてしまおうと思ったからか。

 足下に寄ってきたクロを抱きかかえて、席に座る。

「ねえダリア」

「うん」

「もう帰らないよね?」

「もちろん」

 そう言って、クロの頭を撫でた。

 ゆっくりと電車は動き始めて、最後の駅へと向かい始める。

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