ほしのえき

 レールの上を電車は走る。辺りは、まだお昼ぐらいだというのに真っ暗で、何かが出てきそうな雰囲気だ。車内の中では、明かりがついてぼんやりと照らされる。

 そうしてゆっくりと電車が止まった。

「ほしのえきー、ほしのえきー」

 アナウンスと共に扉が開く。そこから覗く景色は、なんだか冷たい雰囲気で行きたくないなあという思いが先行してしまうような。私はそのまま座っている。腰を浮かせようとすらしなかった。

 怖い、嫌だ。電車が再び動くまで待っていよう。そう思った瞬間に、膝に乗っていたクロがすとんと降りて、電車の外へとするする出て行こうとする。

「あ」

 待って、という言葉が出るよりも先に、クロはするするりと外へ出てしまう。わざとらしい「にゃあ」という鳴き声と共にあの暗闇に溶けて消える。消えて、現れて、消える。明滅を繰り返して、「にゃあ」とクロが鳴く。

 私は重い腰をあげて、震える足を無理矢理動かす。扉の外に出る頃には、クロの形を捉えることができたのだった。さっと抱きかかえて、ふと、上を見た。

「…………」

 きらきらしたものが空にちりばめられている。大きさもバラバラで、配置もバラバラで、無数に光るものが空にあった。これは、

「星だよ、ダリア」

「図鑑でしか見たことない…………」

「そうだね、実物は僕だって見たことない。これが初めてだ」

「こわくないね」

「……当たり前でしょ」

 クロは、ふぅとわざとらしくため息をつく。

 私は首が痛くなるぐらいその星空を眺めた。


 □□□


『お客サマ、そろそろ発車しますがよろしいですか?』

 その声に、あげ続けていた首を元の位置に戻す――ことができなくて、まるでしばらく油を差していない機械人形オートマチックドールのように、ちょっとずつ首を戻して、「はい」と答えた。そしてすぐに電車に乗り込んだ。

 電車は扉を閉めて、ゆっくりと動き出す。ガタンゴトン、と音を立てて。

 景色が流れていく。窓を開けて、上を見ると、どこまでも星空が広がっているのが見える。永遠に続いているかのような錯覚を覚えたけれど、それはないというように、さらに暗い闇が遠くに見えた。

「ダリア。降りちゃだめだよ」

 と、クロが小さく言った。

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