しろいえき
『しろいえき〜、しろいえき〜。到着いたします……』
気づくと、次の駅へと来ていた。プシュウ、と間抜けな音がして扉が開く。外は嘘みたいに白い。荷物もそのままに、外に出る。
空はどこまでも白く、その空から白くて丸いものが降ってきていた。そっと手の上にのせてみると、じんわりと溶けていく。ホログラムなんかじゃない、ほんものだ。いつか
「……すごい」
降り積もる雪を見て、思わずこぼれた言葉。
「溶けてない部分もある!」
ホームの隅に白い山が作られている。触ってみると冷たく、それでもさっきみたいに全部が溶けない。手にわずかばかりの水分が張り付くだけで、白い雪山は未だ健在だ。消えない。
雪山の一角を掴んでみる。思ったよりも下の方は固くて、あまり掴みとれない。ならば上の方、と掴んでみるとあっさりと手のひらの上に大量の雪が乗る。手のひらの上が急激に冷えていくのを感じた。ああこれが雪なのか。これだけあると中々溶けないようで、むしろこちらの体温を奪っていくようだった。
『次の駅へ出発します。駆け込み乗車はおやめください……』
慌てて足早に電車に乗る。
その瞬間にシュッという音がして、即座に扉が閉まって、電車が発車した。少しぐらつきながら元の席へと移動する。クロがわざとらしく「にゃあ」と鳴きながら、私に近づく。足で蹴飛ばさないように、少し距離をとりながら、ドカッと席に座った。
ひとつため息をついて、クロを抱きかかえる。
「動いてるからさあ……」
「“ボックス”なんだから大丈夫だよダリア」
「うん、そういうことじゃないから」
「ダリアはいつもおかしいね」
こてんと頭を横に傾けてクロは言う。おかしいのはクロだって、そう。でもそれを言ったって意味がないのはわかっている。分かっているから、つるりとした輪郭をなぞるのだ。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。古めかしい音を立てながら電車は進んでいく。
□□□
あれまで白かった空は、少しずつ晴れていく。水の音が聞こえる。窓を開けようと思って、片手で窓枠を上であげようとするが、重いのか古すぎてガタつきすぎて開かないのか、動かない。仕方なく両の手を使い、動きづらい窓枠を上へ上へと押し上げていく。なんとかガコッと音がして、打ち止めだ。
目の前には、眩しいくらいの青い空に、どこまでも広がる海が見えた。
この電車は、今、海の上を走っている。向こうまで続くレールは、青い海に浸かっていた。
「海の上を走ってる……」
あの国ではあり得ない光景だ。それは断言できる。
電車は海の上を軽快に走っていく。決してあのホログラムなんかじゃない。窓枠の外に手を出してみると、少しの暑さと強めの風を感じることができる。これは私たちが忘れていた、忘れようとしていた自然というものだろう。私の世代の子たちは一度だって体験したことのない。
『次の駅に到着します……』
あんなに晴れていた空が急速に陰りを見せてくる。完全に暗くなった頃、電車は停止した。
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