僕はハイウェイの途中
「タイヤがアスファルトの上を滑っていく音を聞くのがすきだ」
僕は車のキーを指先で遊ばせながら、山の麓の街の明かりを眺めていた。
僕の人生は今のところどん詰まりで、周りはそんな僕に愛想を尽かしてしまっている。
そして僕はというと、ここ数日はベッドに寝転がってだいすきな曲を流しながら、幸福についてぼんやりと考えていた。現状への打開策は一向に思いつかない。
3月の冷ややかな夜風が首筋を撫でるせいで、僕は肩をすくめた。
「夜中のサービスエリアのしんとした空気がすきだ」
死にたいと思ったことはあまりないのだけれど、なにをして生きていけばいいか未だによく分からない。生きがいって言葉は、どことなく胡散臭いから嫌いだ。そしてそれにかまけて日々を消費していく自分も。
「ヘッドライトが真っ暗な路面を照らしていくのを見るのがすきだ」
どこかにとても素晴らしい何かがあったとして、僕がそれを手に入れることはないのだろう。僕の目には物事の悪いところばかり見えてしまっていて、目の前を通り過ぎる素晴らしい何かを見落としているんだ。それに気がついてしまっただけ。
「この道がどこか知らない場所へと続いている事実が、どうしようもなくすきだ」
ここは郊外のサービスエリア。周りには誰もいない。少しだけ心細くなる。灯りは控えめに点々と、立ち寄った人々を白色に浮かびあがらせている。
視界の端では、暗い藪の中から痩せこけた犬が僕を誘っていた。子供の頃、僕の家にいた子とよく似ていてそれを追いかけてしまう。
目の前に被さる枝葉をかき分けて進むと、急に開けた場所に出た。そしてそこには古い祠があって、その祠の下ではあの野犬とその子供たちが身を寄せ合っている。
「辿り着く先はどこだろうと、僕は一向に構わないんだ」
今はまだハイウェイの途中。どこかに行く、何かになる途中なんだって信じていたい。この先にはなにがあるんだろうか。なにもありはしないのだろうか?
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