芸術と心

無常アイ情

はじまり

 プロローグ

 「痛い。」

 痛みを知ったのは、胚だった頃、母のお腹の中で、神経が作られたその時だった。

 受精後、すぐに、体中が分裂し始め、意識さえ未だ無かったその頃、その個体は発生した。

 その個体は、臍から管で栄養を取り入れられる様になった、母から栄養を奪い、愚かに成長を遂げた。


 「一ちゃん。」

 気付くと、そう呼ばれている事にお腹の中で気付いた。その時は、足が生え、手が生え、頭がデカくなり、ケショクノワルイ人間の形を成していた。



 僕は、家族が嫌いだ。理由は愚かだからだ。頭の悪い家族を何時からか見下すようになっていた。反抗の心は止められなかった。

 

 家を燃やした。火事になった。小学一年の頃だ。誰も私が犯人だなんて疑いもしなかった。いい子で評判のあの子を疑う筈が無い。


 天才児であった私は、3歳の頃には、微分積分ができたしショパンが弾けたし夏目漱石やニーチェの哲学が分かり、パソコンが使えた。


 家族が死んだ事できる金が手に入った。裕福だったこの家の財産の全ては私のものになった。


 妹だけは殺せず、離れて何処かです離れて暮らしている。


 図書館で、物理やら化学の本を読み漁った。放課後は図書館に入り浸っていた。




 これは、ある青年が、大学卒業後、に始まる話で有る。 

 大学、名門、名の通った大学に進学した、翼は、新生活に胸を弾ませていた。

 私は7歳の時、一に一目惚れして以来ずっと、彼のストーカーをしている。あの御遊戯会の日、私は、不器用ながらに踊って、照れ笑いするあなたが好きになったの。

 8歳で、同じ小学に入って、沢山ライバルが出来てしまって、アピールできなかったけれど、私は彼を陰でずっと見てきた。

 中学も高校も同じだった。


 一は、頭が良かった。頭の回転が早かったのだ。何を言えば、人に喜ばれるのか、怒られるのかが直ぐに分かった。


 手紙で告白された時は必ず、悲しませない様な断り方を選んできた。楽しいことをして、うやむやにするのが得意だった。いつもニコニコしていた。


 外向きは、とても、いい人であった。そうするように、植え付けられていた。可愛いねとよく言われた。笑っていた。部屋では、泣いたり笑ったりしていた。どうして泣いているのかわからなかった。


 「お前さあ、夢とかないの?」

 友人の茂樹が、聞いてきた、言葉が何故だか耳から離れ無かった。夢はある。ただ、それは、限りなく叶える事ができる可能性のない夢だ。夢にも出て来るくらいに願っている、願い。


 人間嫌いになった。



 この大学には、三大都市の一角を占めるこの都市にある大企業の令嬢が通っていた。


 「おー!ミスター天上!」


 どうした訳か、私、天上 一は、才色兼備を持った、金髪の整った西洋の趣を持ったこの国一番の財閥の令嬢に気に入られている。


 事の発端は、私の実験ノートを見られた事件だ。


 彼女はリムジンで送り迎えてされ、執事に護衛されていた。


 「付き纏うのは辞めてくれないか?」

  彼女への不快を表すと

 「嫌よ。何としてでも協力してもらうんだから。」

 と、強情に研究員としてある実験に協力することを要請し続けてきた。


 「幾ら出るんだ。金額によっちゃ考えが変わるかわからん。金には困っているからね。」

 「20億よ。」

「内容は?」

 「極秘のアルバイトよ。人手が無くて困ってたのよ、ウチのパパ。」

「具体的には、此処では言えないから、今から、施設に来ない?そこで、説明するわ。」

「わかった。」


 車に乗せられ、何時間もすると、海の在る場所へ出た、潜水艦が停泊していた。 

 「これに乗って、きっと驚くわよ。」

私達は、海底深くのある場所でワープして、亜空間に飛ばされた。

 「此処は、どうして息ができる。」

「司が、開拓したんだ。」

 聴き覚えの在る名前に困惑した。

「司って、数色 司か?」

「彼を知ってるの。」

「あぁ。まぁ。」

 司は友達だった。数年前急に消えてしまった事件以来、一度も口を聞いていない。


 時間の存在しない、亜空間の中で身体が崩れずに、その形を維持し、意識が在る事に驚いた。これも司の研究の賜物なのだろうか。


 何も無い白い空間を歩くと、見たことの無い建物が立ち並ぶ場所があった。


 その場所のとある実験所に入った。


受け付けのロビーで、スーツを着た人が出てきて

 「この子が、実験の手伝いをしてくれるっていう子かい。」

「そうよ。実験の腕は、神にも勝るわ。」

 「是非、観て見たいものだ。そういえば、西條君は君の友達だったね。原因不明の死は私が殺したのだよ。どうしようもない餓鬼だったからね、改造してロボットにしてくださいと、彼の父親から連絡があってね。」

 茂樹は、殺された。

唐突に、背後から、博士服を着た、長髪の黒髪でキリ長な目をした塩顔の男か女か見分けの付かぬ美しい人か神かが現れた。


 その、美しい人はカリスマがあった。私が憧れた人だった。私はその人のその背中ばかりを追っていた。


幼馴染みの数色 司 


「まさか、一が来るなんてな、会えてよかったよ?ね?」

 司は私の事を覚えていた。

 奥には、実験室が在り、そこで久闊を叙した。


 それから、彼が、国を動かす商売に手を出している事を知った。

 ○○財閥は、司の科学力に多額の研究費と倫理的な禁忌を犯してまで、研究の支援を始めたらしい。

 「先刻の、女は蛙の細胞から作ったんだ。人間のdnaを書き加えてな。只失敗作でな、少々口が悪いんだ。」

   

 空調設備の整った水槽には、培養液が入っており、あらゆる真核生物が半殺しの状態で保管されていた。  


 「この海底は、僕が見つけたんだ。いや、僕達三人が。」

 「懐かしいな、夏休みに、手製の潜水艦に乗っていた時、あの穴を見つけたのを思い出すよ。」


 その穴は、時空間の狭間、無限の時の集まる時間と空間の歪みだった


 「あの時から、必死で勉強して、この現象を調べてきた、茂樹が死んでから、ずっとだ。なのに、お前に先を越されたかも知れない。この亜空間に人を住める様にし、太古の生物を復活させ、不死身の実験に着手していたとはな。」

 ホワイトボードに、この亜空間にも関する数式を書き始めた。

 「クォーク、レプトン、重力子、光子、ウィークボソン、グルーオンそして、ヒッグス粒子、それらの相互作用を定式化するのに成功してね、その演算装置がこれさ。」

 司の作ったコンピュータは、この空間が存在する条件と、空間を持続させる為のエネルギーが種々の方程式から導くことができ、随時計算されていた。

 「パパ、此処は気味が悪いわ。帰りましょ。」

「司くんの力は本物だ。この商売が成功すると私は信じているよ、娘もこう言っていることだし帰るとするよ。」


 二人が立ち去った後、サトシという犯罪者が、世の中の人を殺すとコンピュータは予測した。

 

  

 白い亜空間は光の集まり。

 黒い亜空間は闇の集まり。

 光はこの世で最も速いが闇は其れさえも吸収する。


 

 司は碑文に書いてある文字を読んだ。此の碑文は、亜空間即ちワームホールに住む他の文明が書いたものだと言った。

 

 「此の空間にはわたしを含め4人しか入っては行けない取り決めがあるんだ。」



 第二章 宇宙碑文神話


 ったくなんだったんだ。番人に選ばれましたってのは…。あれは三人で海底の巨大な穴を見つけ、茂が吸い込まれて死んでしまったものと、怯えていた時だ。


 「天上の神々は、かつて生命だった。貴方は神になれる素質が在る。地球の言葉であなたに語りかけている私は、地球から天上に行く方法を見つけ神となった者だ。」


 肇の家の家業は代々船大工をしていた。造船所の元締めで、ロケットや大砲、軍艦迄製作できる巨大企業だった……。


 「この潜水艦スゲェ!乗ってみようぜ!」

其れが、すべてのはじまりにして終わりである。当時小学四年生の私達は浮かれている。


 「パパに怒られるよ。ダメだって。」


この日、肇の父 天上 与一 はこの国の軍に兵器の製作を頼まれている。


 「その潜水艦を隠して置いてくれねぇか?軍に見つかると没収されちまうんだ。大事な舟でよ。」



「よし…。約束通り,戦艦100、銃1万、戦闘機1万、戦車1万ヲ頂戴する。3兆円は振り込んで置いた。」


「死ぬんでねえぞ!」



兵隊は敬礼して造船所を後にした。



 三人は潜水艦で海底を探索していた。

 海底では、巨大な穴が突如現れ、三人は飲み込まれてしまった。


 其処は、真っ白な空間だった。色は無かった。手が見えず。光が強すぎるのか、無いのかさえ分からない程に白く何も見えなかった。

 

 其処は、真っ黒な空間でもあった。


ベクトルを頼りに歩いていくと、人工的な神殿の中にたどり着いた……。其処には色があった。

 

 「やぁ…。待っていたよ。僕達は番人さ。」


 「天上さんの倅でしょう? 全く此の空間に連れてくるかねえ。」


「地球の担当者は部外者を連れてくる。けしからんな、天上といい、天照といい、ガイアといい、あれが原因で人間は争い過ぎじゃ無いですか?」


「あまりにも、地球の知的生命体の成長が著

しいものですから、仕方ありませんよへへへ。」


 「で。この三人は手違いで来たと?」


 「神話の通りですよ。天上の倅と、天才科学者の司はねー。でももう一人は知らないね。」


四人の、人間離れした程に神々しい番人と名乗る者達が議論していた。


 「此処は一体何処なんですか?」


 「教えてはいけない決まりなんだ。其処の碑文に書いてある。読めればわかるというだけだ。」



 其処には、この世界の成り立ちが記されていた…。


 その昔、この世界は一つであった。力は4つに分かれ、時間が生まれ、質量が与えられ、レプトン、クォークが現れた。

 世界が複雑になるにつれ、抽象化が進み、数が世界を支配するようになった。

 法に従い生命が作られた。

 愚か者の生命は法を破り、世界の秩序を破壊した。

 神となった生命は無限♾の力を操る。

 神を殺せしは科学のみ…。


 此処に4つの席を設ける。その者に不老不死に力与える。

 

 この世界から天上の世界へ昇る方法ヲ見つけ世界の法作りし神となる。


 神は、世界に干渉できぬ…心なき力の塊なり。

 

 碑文にはこう書かれていた。父の書斎に隠してあった書物の文字で書かれていた。この世界には存在しない文字。音は分からない。人間の発音では表しきれない発音。


 「という事は、此の四人が四番人なのか?」


4番人は四つの領域で分けられる。複素数で四方向を表して各値がその領域とする。

a +b i 、a -bi、-a +bi、-a -biで在る。


天上之神と呼ばれし人、肇を遣わし、司という少年現る。司、此の世界の理論作り、天地を創造す。


 此れ古より我が國に伝えられし伝説。


我等、4番人天に昇る。時が満ちたようだ。


訳のわからない碑文に戸惑いが隠せなかった。


 気付くと、海の砂浜にいた。


「おめぇ等、潜水艦は無事なんだろうな?」


父がやってきた。

茂樹が居なくなっていた。


「茂樹が居ない!」


「誰だよそいつ、そんな奴しらねぇよ。」


「友達だよ!よく三人で遊んでた。」


「しらねぇなぁ。深海で頭でもやられちまったかハハハッ」


肇と司を除いて、茂樹は忘れさられた。


「司?」


「見ちまったよ。お前が気絶している時だ、あいつ、ロボットだったんだよ、」


「お前、何言って?」


司は茂樹の頭を持っていた。抉れた首には、機械が組み込まれていた。


「爆発したんだ。あの潜水艦。空間に耐えられなかったんだ。茂樹は巻き込まれて死んだ。」


「何言ってんだ。お前ら。潜水艦なら此処に在るじゃねーか!」


「ち、ちがう、其奴は茂樹の身体で作られた修理品なんだ…」


父の左腕には拳銃が握られていた。あの潜水艦。茂樹の肉体が材料だったのだ。親父は機械に心を宿らせ、秘密がバレたから潜水艦の材料にして作り替えた。


恐怖で体が震えていた。


第3章 記憶


親父に記憶を弄られていた一は、亜空間に来る迄、前世の記憶を失っていた。


四番人の一人は唐突に口を開いた。

「此処に来て漸く思いだしたか。あの後お前は、別の人間に変えられたんだ。記憶ごと消されてな。」


 親は死んだ。父は殺された。当然の報いだ。祖母は、笑った。殺された息子を見て、笑っていた。


 「この部屋は没収する。」

 

 祖父は有力な政治家だった。核開発に力を入れていた。


 「君の一族は滅びたんだ。」


 母は、一を一心に愛し育てだが一を庇って死んだ。


 妹は、この世界の王族直属の料理人になった。妹?誰だ。未だ大学生では…。


「お兄ちゃんなんだから…!お兄ちゃんらしくしてよね!…。」


 誰だ?お兄ちゃん?


「よく出来た妹が居るんです。妹はしっかりものなのに…。」


「妹さん、何処の高校通ってるの?」


「この近くの○○○高校ですよ。食物科なんです。」


そうだった、あいつは、鬼黄泉は、死者蘇生の調理とか、若返りの調理ができる、だから国に狙われていたんだ。


 「その力。あなたの料理は世界を変えてしまう!!。だから死んでもらう。」


銃声が鳴り響く、黒いスーツと黒い紳士帽を被った仮面の悪魔が妹を連れ去った。一は弾丸が脳天を貫通して…。死んで、別の世界に転生した。

 

 第四章 パラレルワールド


 そして、私は0歳に戻り、母のお腹に転生した。

 この世界はどうやら過去の世界のようだ。やり直せる。生まれてきた瞬間、一族の闇を暴く決意をした。


 そして、大学2年のこの時、どうして忘れていたんだ!一族は私の正体に気付き、記憶を書き換えていた。

 

 以前の歴史では、一族はもう既に滅びている筈だ、茂樹や司との出会い、記憶を弄られた事で歴史の一部が変わったのだ。


 「司、どこまで知っているんだ?」


「お前の一族を滅ぼしたのは、四番人だ、人間離れした能力の天上一族を四番人は恐れて排除した。」

 

 過去に行く事は不可能とされている。起こった事は巻き戻せない。


 「別の世界に作ったんだ。過去の状態を。お前の一族は四番人の血が流れてるんだ、代々その力を継承してきた。そして、地球の四番人がお前らしい。一、お前はいずれ四番人になる。未来のお前の姿が四番人の一人なんだ。」


 祠から、祖父母の声が聞こえてきた。


「私達は何も知らなかったんだ。ただ殺されただけなんだ。国が命を狙う訳も孫が一族を恨む理由もわからず、殺された。無念じゃ。」


一は、祠を蹴飛ばし、天上の名を呪った。


 「一。其処にいるの?元気そうでよかったわ…。」


母の声が聴こえる。しかし、此方の声を伝える事は出来ないのだ。母さんは悪魔の子だったと伝えられている。


 哀しそうに、泣くように言っていた。


 「あいつらが悪の諸元なんだ。許してくれ。」


そんな懺悔も儚く聴こえず。虚無に消えるのみ。


 「死んだ人は戻ってこない。その生前の言葉が祠から聴こえるだけだ。」


 司はそう言って、祠に頭を下げて挨拶した。


「死者の蘇生、身体の保存状態次第では、可能だ。」


 一はポツリと呟く様に、死んだ妹を脳裏に浮かべ言った。

 

「その実験は幾度と失敗している。この亜空間に辿り付いてから何億年と出来ていないのだ。」


 「生前の記憶で、妹の鬼黄泉が蘇生法を確立して、その力を恐れた政府に消されたんだ。」


 天からやってきたという天上一族は、世界から呪われた。圧倒的力のあった一族は人間から忌避されたのだ。其れから力を隠して過ごしてきた。


 前世の記憶が蘇る。僕はこの時代の天上 一ではないのだ。時を超えて、幾度もこの役を繰り返してきた。無限ループ、結末はいつも一族の滅亡と、世界の崩壊。


 記憶によると、このあと、世界の謎を解き明かした人間が現れ。世界を無に帰し、生き物の情報は失われ、ループが始まるのだ。


 この、歴史を変えようと固い決意があったのに、忘れてしまうのだ。


 


 


 

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