崇拝少女2

チューベローズ 花言葉は危険な関係、危険な快楽。別名ゲッカコウ。

4月28日(木)

皇立コスモス女学院 廊下


 コスモス女学院名物の一つに挙げられるイベント。それが4月末に始まる部活勧誘戦争である。コスモス女学院には、自発的な活動を促すという名目で50以上の部活動が存在する。そんな数多の部活が活動費確保の為、あるいは部の存続の為に新入生を奪い合う様子を戦争に例えた為このような名前が付いた。

 今年の戦争も、先ほどの時間に行われた部活動紹介が終わったと同時に開戦。学内は今年度初めての盛り上がりを見せた。

 一方、1年A組の生徒はというと、ひまわりは既に決めていたらしく薙刀部に入部していた。そして、たんぽぽは合唱部の勧誘を受け入部を決意したのだった。

 そんな中、たんぽぽの入った部活に入ろうと考えていた香は、たんぽぽが合唱部に入ったことで行き先を失ってしまっていた。香は自他ともに認める音痴なのだった。

「香ちゃん。あなたは何部に入るか決めたの?」

 机に座ってどうするか考えていた香にたんぽぽが話し掛けてきた。

「ふひひ、まだ決まってないんだぞ」

「香ちゃんは超能力研究会の勧誘、受けましたか?」

 超能力研究会。おそらくコス女にしかないであろう弱小部活である。

「私は受けてないぞ。でも誰か勧誘を受けてたぞ」


     *   *   *


「ねえ君。超能力とか興味ない?」

 超能力研究会、略称超研の部長佐々木かんなは、たまたま通りかかった少女、1年B組の生徒、牧野かがりに語り掛けた。その言葉を聞いたかがりは不意に立ち止まってしまう。それを好機と見たかんなはかがりに向かって語り始める。

「君は超能力の存在を信じてる? それとも、君か知り合いの誰かが使えたりする?」

「え、えっと、あの……。まあ、信じてる方だとは思いますけど」

 突然の言葉の嵐に襲われたかがりは、勢いに気圧されてしまい反応は控えめなものになってしまった。だが、かんなはそのままの調子で語り続ける。

「あ、信じてる? 良かった~、信じてくれる人いたんだ~。そうだよね、絶対あるよね、アルビオンのストーンヘンジなんかの列石群とか絶対に人の力だけで作れないものがこの世にある時点でそう思うよね」

「そ、そうですね……」

 かんなは必死であった。今年の5月末までに新入生を勧誘できなければ、これまで続いてきた超研の歴史を途切れさせる上に、自分の高校生活最後の1年を楽しむことが出来なくなると思ったからである。

 だが、それを気負うがあまりに、勧誘はある種のヤバさを放つようになり、ただでさえマイナー部活動の超研には誰も寄り付かなくなっていった。そんな中寄ってきた数少ない者にも、人の来なさゆえに、より悪化した宣伝をするという状態になっていた。

「……で、どうかな? 超能力研究会。入ってくれる?」

 かがりの耳はかんなの言葉全てを聞くことを拒否したらしく、話の大部分を聞き取ることが出来ないまま話の締めに入っていた。そしてかがりはきっぱりと答えた。

「わたし、超能力は気になりますけど、部活に入るほどではないですし、入る部活も決めてますので。それでは」

 そう言ってかがりは逃げるようにその場を去り、かんなは床に崩れ落ちた。


     *   *   *


「こんな感じだったぞ」

「ひどいわね。完全に逃げられているわよね」

「あ、あの……」

 話をしていた二人の背後から、突然えりかが話し掛けてきた。

「わたし、その超能力研究会に入ったんです……」

「えっ? えりかちゃん、あんなヤバそうな所入ったのか?」

 香は傍から見ても分かるほどに引いていた。

「うん。元々ああいうのには興味があったし。それに入ったら普通に良い人だったよ」

「あなたは……、確か倉田えりかさんね。香ちゃんとお友達に?」

 たんぽぽは手を打ち合わせて笑顔を浮かべる。

「は、はい。お世話になってます」

「良かったわね、香ちゃん。お友達が出来て」

「や、やめてよたんぽぽさん。ふ、ふひひひ」

 香は顔を赤らめながら俯いた。それを見たえりかが笑いだし、それに釣られてふたりも笑いだし、三人は笑い合った。

 結局この後、香は部活を決めることは出来ず、彼女は帰宅部となった。


ベロニカ 花言葉は忠実、名誉。別名はルリトラノオ。

5月18日(水)

皇立コスモス女学院 1‐A教室


 この日最後の5限目の物理の授業が終わり、ベロニカ先生はそのままホームルームを終わらせた為、たんぽぽは帰る準備をしていた。そこにひまわりがやってきて話し掛けてきた。

「たんぽぽさん、今日の放課後、予定は空いてますか?」

「ええ、大丈夫だけれども。どうかしたんですか?」

「渋谷におしゃれなアパレルショップがあったのだけれども。一緒に行きませんか?」

 ひまわりが自分から話し掛けてくることはほとんど無かった為、たんぽぽは一瞬何事かと戸惑ったが、ショッピングの誘いだと分かりひとまず安心した。

「ええ。良いわよ」

「おーい、たんぽぽさん。一緒に帰るぞ~」

 そこに香がやってきて、香とひまわりの目が合った。

「ごめんなさいね、月下さん。今日は西村さんと一緒に渋谷に行くの。だから今日はご遠慮してくださる?」

「あ、渋谷なら私も通るから一緒に行くぞ?」

 たんぽぽと香の家がある自由が丘へは電車で行く場合、「コスモス女学院前」駅から、「渋谷」駅経由で帰る為、渋谷に寄るのは必然であり手間がかかる事ではなかった為、香は同行を希望した。

「申し訳ないけれど、今日行くところはあなたに似合う所では無いのよ。ごめんなさいね」

「ひまわりさん! 何もそんな言い方しなくても」

 たんぽぽは香も同行しても良いと考えていたが、ひまわりが予想に反して辛辣に拒否した為、慌てて仲裁しようとする。しかし、香は主催者であるひまわりに逆らうことは無駄だと考えたのか簡単に折れた。

「分かったぞ。ひまわりさん、楽しんでくるんだぞ……」

「ま、まって、香ちゃん」

 たんぽぽの制止も聞かずに香はそのまま教室を出て行ったのだった。

「ひまわりさん。どうしてあんな言い方を?」

「今日行く店は、彼女のような人が行く店じゃなくてお嬢様向けの店なの。彼女には合わないと思っただけよ」

「だからって……」

「じゃあ、私は準備するわ」

 そう言ってひまわりは自分の席に戻って荷物をまとめ始めたのだった。


デンドロビウム(デンファレ) 花言葉はわがままな美人、お似合いのふたり、魅惑、有能。

5月23日(月)

皇立コスモス女学院 客室


「君が直接ここに来るとは、驚いたよ。で、ここに来たということは例の件は見当がついたのか?」

 客室に突然呼び出された蘭を待っていたのは、情報大臣である蝶子であった。

「はい。大体のことは」

「予想以上に早いな」

「調査は継続中です。あまり静観もしていられないので早めに報告しておくべきかと思いまして」

「そうか。じゃあ総理も話は通しているのか?」

「はい。これから行くつもりです」

 そう言って、蝶子は机の上に書類を並べる。

「この件は早めに閣議に上げないといけないと思いまして」

「大方予想通りだったが、思っていたより準備は進んでいるようだな」

 並べられた書類の中にはMLFが所有すると目される倉庫に並ぶ兵器の写真もあった。

「爆弾テロ程度では済まないかと」

「そうだな。で、これからの調査はどうするつもりだ。手出しは出来ないだろう?」

「はい。ということで、最低限の監視要員を残して調査員は撤収。府内で起きている連続少女誘拐事件の調査に当たるつもりです」

「ああ、あの。確かシオンが捜査に当たっている事件だな」

「はい。まあ紫苑特別捜査官が考えているようなMLF絡みの事件とは今回の調査から見て、考えにくいですが……」

「まあいい。彼女には好きにやらしておけば大丈夫だ。で、この書類は貰ってもいいのか?」

「はい。何部か用意してあるので」

「まあ分かった。時は近い、ということだな」

「はい」


マーガレット 花言葉は恋占い、真実の愛、信頼。別名はモクシュンギク。

東京城北の丸 首相官邸


「総理、MLFに対する調査の中間報告に参りました」

「いいわよ。報告をお願い」

 書類を受け取った内閣総理大臣、春木菊代は蝶子に話すよう促す。

「はい。今回我々情報省は、MLFの拠点とみられる兵庫県内の倉庫群の調査を行いました。そこで判明したことがそちらの書類に」

 菊代が書類をめくり始めたのを確認し、蝶子は話を続ける。

「まず、この度のMLFの勢力拡大のきっかけとなった新リーダーカラスノエンドウですが、彼は元々、京都皇宮警備隊という事実上の特殊部隊出身であることが分かりました。また、この部隊を設立したのは京都国会です。MLFの背後に京都皇室と国会が関わっていることは間違いないかと。」

「そうか。やっぱりそうだったかぁ」

「それに、MLFは銃火器に加え、戦車や航空機までも所有していることが分かりました。それらのほとんどは国防隊のスクラップ逃れかと考えられますが、一部はリバティアのF-15、M1A1、ロマーシカのSu-30、T-80など最新鋭の機体も僅かですが確認されています」

「リバティアやロマーシカもMLFに援助しているということね」

「間違いないです。銃火器も多くの海外製の物が確認されています」

「女皇からは手出し無用とは言われているけれどもねえ。」

「何か策はあっての事でしょうから、今は大人しく見ている他無いですがね」

  華装麗機「破滅の恋占い《Secret lovers》」

 菊代が突然華装麗機を起動する。すると、彼女は白と黄色を基調とした服へと変わり、背後に大きな花が現れる。

「どうしたんですか? 突然起動したりなんかして」

「放っておいても大丈夫なのか占うのよ。花よ、花よ。此度の件、このまま傍観を続けるだけで宜しいのでしょうか?」

 菊代がそういうと背後の花の花びらが次々に抜けていく。

「これ、当たるんですか?」

「ええ。破滅の恋占い《Secret lovers》の占いは百発百中よ」

 そんなことを言っているうちに最後の一枚が抜け落ちる。すると花の上に大きく赤い丸が浮かび上がった。

「良いみたいよ。決まりね。すぐにこの件は国会で会議するわ」

 そう言って菊代は華装麗機を解除。元々着ていたスーツ姿へと戻った。

「放っておくのではなかったのですか?」

「手は出さなくても、準備をする分には問題ないわ。この件、女皇にも通しておくわね」

「お願いします」

「それにしても、いよいよやってくるのね」

「はい」

 菊代と蝶子は笑みを浮かべながら、これから起こることに備えるべく、蝶子は情報省本部へ、菊代は自分の仕事へと戻っていった。


サザンカ 花言葉は謙遜、愛嬌、困難に打ち克つ、ひたむきさ。

5月30日(月)

皇立コスモス女学院 講堂


「本日、皆にここに集まってもらったのは知っての通り、当校の3年生、俺の生徒の華咲夜子が行方不明になった件だ。これについて学園長から話がある。それでは学園長」

 そう言って三坂学園長と入れ替わりで壇上を降りたのは、生物教師にして行方不明になった生徒の担任であったロードデンドロンこと楠石花であった。彼女の握りしめていた拳は犯人への怒りか生徒を守れなかった悔しさからか震えていた。

「学園長の三坂だ。今回の事件は非常に残念であります。華咲さんが早く見つかることを期待しています。現在、学園側からも東京警視庁に対して、いち早い事件の究明と華咲さんの発見をお願いしています。警視庁は今回の件が『府内少女連続失踪事件』との関わりがあると見ているそうです。ですから、皆さんも帰宅時等はなるべく二人以上で行動するようにしてください。そして、今回の件をあまり背負い込みすぎず、今まで通りの学生生活を送ることを心がけてください。私からは以上です」

 三坂学園長はそう言って壇上を降り、司会をしていた楠が解散を告げ、緊急集会は終わった。しかし、生徒の大半はこの日の授業をまともに受けることは出来ず、教師たちも生徒たちの心情を慮ってそれを注意することはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る