第10話

 お店の前に誰かがいる。深い緑色のコートを着てる銀髪の女の人。年は私より少し若い、かな。


 お店の前を歩いたり、少し離れたり。何かを探しているみたい。



「あの、何か探してるのですか?」



 驚かさないように相手の視界に入ってから聞くと女の人は困ったように笑う。あ、傭兵さんに似てる、かも。


 近くで見てわかったのだけど、この人、綺麗な青色の目。



「人探しを、していてな」



 女の人にしては少し低い声。



「恐らく祭りとやらに居るのだろうが……私はどうにも人ごみが苦手なんだ」



 モテてしまうから?


 口には出さないけれど、思った。


 スタイル良いから。なんて言ったら良いのかは分からないけれど、傭兵さんの言い方をするなら、出るとこ出てて、締まるところは締まってる。


 傭兵さんが好きそう。



「お祭りにいる人なら多分わかると思います。その方のお名前を教えてくれませんか?」



 私より少し背の高い女の人は申し訳ないと会釈する。


 とっても律儀。



「ヨウヘイ、という人だ」



 ヨウヘイさん。



「それって、いつもの傭兵さんですか?」


「いつもの? 確かにあの人はいつもヨウヘイ様だが」



 様が付くなら違うけれど。傭兵さんじゃないなら他の傭兵さんは伊佐君だけになる。


 伊佐君は違う、気がする。



「背が高いですか?」


「ああ、私より高い」



 伊佐君じゃないことは確定。伊佐君は私と同じか少し低いくらい。


 でも、この村に傭兵さんはもう居ない。



「あ、だらしないですか?」


「非常にだらしない」



 いつもの傭兵さんだった。


 女の人は傭兵さんの彼女さんなのか、とても嫌そうな顔をして即答してくれた。間違いなくいつもの傭兵さん。



「連れてきますね」


「分かるのか?」


「はい、多分間違いないと思います」



 この街でだらしないとすぐに言い切れる人は傭兵さんくらいだから。


 女の人はやっぱり人混みには行けないからと、私に任せてくれた。傭兵さんは帰ってなければまだ露店に居る。


 少し急ぎ足に歩いているとやっぱり傭兵さんは追加のお酒を飲んでいる。オジサンと上機嫌に何かを話しているみたい。


 あ、匂い消し忘れた。またお店に戻るからいいかな。


 傭兵さんはこちらを見つけると楽しそうな笑みのまま、酔っているのか大きな声でおかえり、と言う。他人に迷惑かけないだけしっかりしてる。意外だった。



「傭兵さん、匂い消し忘れました」


「え? 雪さんなにそれ、何しに向こうに――」


「向こうで綺麗な女の人が傭兵さんを探してましたよ。多分、傭兵さんが言ってる出てるとこ出てて、締まるとこ締まってる女の人」



「よし、おっさんこれ代金な。雪さん、今すぐ行こうか」

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