第4話
分からないけれど、あまり迷っていると伊佐君を待たせてしまうことになる。
お店の奥にある自分の家。簡単に荷物を整え、回収したものを入れるカゴを肩からかける。今年のお祭りも賑やかになるといいな。マスターさんに負けないように、私も頑張らないと。
マスターさんはお店を上げて食べ物と場所、設備の準備をしてくれる。あとはお酒。酔ったおじさんたちを何とかするのもマスターさん。
私は自分に出来ることを。
村の出入り口には準備を終えた伊佐君が待ってくれている。
腰には少し古く見える剣を携えている。こうしてみると改めて傭兵さんなのだと思う。
いつもの傭兵さんもそうなのだが風格というものがある。傭兵さんなら傭兵さんの。
「お待たせしました」
「俺も今来たところ」
何を言うことなく村の外へと歩き出す伊佐君。早く仕事を終わらせるつもりなのかな。
早く終わるなら、私も準備に時間を使えるから有難い。
この村は周りを森に囲まれている。外から見たら辺境の村、すごく田舎。確かに周りは他の街につながる街道以外には獣道しかない。
今回は獣道でのお仕事。
「じゃあ、頑張ってください」
いつものように言うと伊佐君が間の抜けた声で聞き返してくる。そう、そういえば伊佐君とお仕事をしたことはないんだった。思わずいつもの調子で言ってしまった。
「えっとですね」
いつもなら傭兵さんは魔物さんをすぐに狩ってほしいものを持ってきてくれる。その間に私は自分で集められるモノを集める。
説明すると護衛の仕事じゃない、と半ば怒られてしまう。
伊佐君の考える仕事は私と共に動いてモノを集めることだったらしい。今回は初めてというのもあり、二人一緒に行動することになる。
「伊佐君は傭兵さんで暮らしていくんですか?」
地面に膝を付き、薬草を集めながら周りを警戒してくれている伊佐君に話しかけてみると彼は視線を逸らすことなく傭兵で終わるつもりはないと宣言をしてくれる。
何になるつもりなのだろう。
黙っていると伊佐君は静かに話してくれる。
傭兵さんになっているのは剣術を磨くためでしかなくて、後後は王都に行って王様直属の兵士さんになるのが目的だそうだ。兵士さん。なるほど。
兵士さんになった後は何をしたいのかを聞くとシンプルにお金を稼ぐと言われてしまう。
薬草を集め終えて立ち上がると今度はアチラから道具屋で何をするつもりなのかと聞かれてしまう。
道具屋で何をすると言われても、モノを売るしか能がないから。強いて言うなら無くなるとあの村が困ってしまうからかな。たった一つの道具屋さんだからね。
「へえ、アンタいつから道具屋やってんの?」
「うーん、父から継いでるので……道具屋さんに関わってるのは幼い頃から、としか言えませんね」
「ふーん、もっとでかい街で道具屋やろうとか思わないの?」
それこそ、先ほどの話。
あの村には道具屋が一つしかないから。私がやめるわけにはいかない。何より、楽しいから。道具屋さんをしているのは楽しいから。
多分、楽しいのは伊佐君も一緒。
これから魔物を探すというと楽しそうに笑うのだから。
なんだけ申し訳ない。
獣道からも少し外れた森の中。荷物の中にある香のでる少し特殊な木の実を取り出して火をつける。
「うわ、ちょ、くさっ!」
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