第3話
同情してたのかもしれないね。マスターさんの悪戯には私も困らされてることがあったから。
多少は気をよくしてくれたのだろうか。青年は無表情で蜜柑ジュースを飲み干した。
「彼が傭兵さん?」
マスターに問うと、頼りなくてゴメンと、また青年に対してひどいことを言う。
確かに傭兵さんの平均年齢よりは若いかもしれないけれど、マスターさんが紹介してくれる、マスターさんがお店から追い出さないということはそれなりに良識と実力を持っているということだから。
「私の方が頼りないから。私は咲花 雪(さきはなゆき)。よろしくね、新しい傭兵さん」
握手をしたくて、片手を差し出すと青年は少し驚いたみたいな顔になったけれどすぐに黒の革製、指出しのグローブをした片手を差し出してくれる。
私より少しだけ高い体温の手を少しだけ握る。
「俺は伊佐。月野 伊佐(つきのいさ)。俺が魔物を倒せばいいんだろ?」
仕事の話は簡単に通してあるらしく、青年、伊佐君は自信を持って宣言してくれる。これ以上ない頼もしい言葉に後ろでお酒を飲んでいたおじさんたちが笑っている。
子供の見栄に聞こえたのだろう。青年は相手にしていないようだが、これから私の護衛をしてくれる人を馬鹿にされるのは、私が嫌だ。
護衛を頼むということはマスターさんが認め、私がお願いしたのだから。
後ろを振り向くと、予想通りかなり前に私の護衛をしてくれたおじさんがいた。無精髭を無造作に伸ばしているような人。
おじさんに向かって笑んであげると途端におじさんは目を逸らす。
「お久しぶりです、おじさん。もしよろしければ伊佐君の代わりに護衛をしてくれますか?」
「……悪かった。俺には無理だ」
「でしたら笑わないでください」
伊佐君に視線を戻すと何故おじさんが大人しくなったのか聞いてくる。だけど、今説明してしまうと後ろのおじさんがあまりに可哀想だからそのうち教えてあげるからと、その場を濁してお仕事の話へ戻す。
お仕事は私が薬草や果実を集めている間の護衛、尾羽などが必要となる魔物の相手。この村の近くには低級の魔物しかいないから、伊佐君なら大丈夫だろう。
話を聞く限り、村の周囲の魔物を狩ったことがあるみたいだし、苦戦もしていないみたいだね。
お仕事の出来る日を聞くと今すぐでも構わないみたいだから、準備も兼ねて二時間後に村の出入り口で待ち合わせにして私は一旦お店に戻った。
お店の前に、先ほど見た黒いローブの人が居たけれど私の方を向くと、その人は私に深く頭を下げて、村の奥の方へと歩いて行く。
いったい何なのだろう。
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