第2話

 酒場にはこの村の困り事や、旅途中の旅人さん。村の困り事を引き受けてくれる傭兵さんが集まる。祭の前だと人が多くなる。マントを羽織った旅人さんに、革製や銀製といった様々な防具に身を包んだ傭兵さんたち。


 大きな街には敵わないけれど、昔からこの村に住んでいる私にとってここは人の集まる大きなお店。


 カウンター席の端に腰を下ろすとモノクロの制服に身を包むマスターさんが近寄ってきくれる。マスターさんはこの酒場で困り事を整理したり、傭兵さんへ困り事の解決をお願いしてくれたりする。


 セミロングの金髪、青い瞳。とても綺麗で、スタイルも良い女の人だけれど、マスターさんにはいろいろな武勇伝がある。言い寄ってきた男の人には「自分を倒せたら付き合ってあげる」と言っていつも酷い目に合わせているとか。


 武勇伝の大半がマスターさんの強さを証明するもの。


 同時にマスターさんは私のお店の常連さん。



「こんにちは、マスターさん。お祭りの準備に傭兵さん、紹介して欲しいのですけど」


「分かってるよ。いつものが居ないからね、私が適当なものを見繕っといたよ。ちょーっと頼りないけどね」



 そんなことを言ったマスターさんは私の隣の隣、一つ席を空けた向こう側を見る。そこには二十歳くらいの青年がいる。旅人のように古ぼけた茶のマントを首から下げ、体には胸を守るように革製の鎧を身に付けている。

 橙のショートヘア、橙の瞳。


 飲んでいる物も橙。



「蜜柑ジュース?」



 私もこのお店でよく頼む飲み物で、とても美味しいのだ。お店唯一のお酒でない飲み物でもある。



「悪いか」



 青年は酒場でお酒を飲めないことを気にしているのか、ムッとした表情で私を睨んでくる。


 少し悪戯好きなマスターさんは青年を見てまだまだ子供だな、と笑う。マスターさんの言葉を聞いて、青年はまた不愉快と言わんばかりに眉を寄せていた。



「私もいつも飲んでるよ、お酒飲めないんだ」



 大人なのにね。

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