第3話 カタギとカタヌキ
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「いや~儲かった儲かった」
ケイリは、ホクホク顔で屋台の人混みから帰って来た。
「さて、私はどこに行っていたでしょう?」
儲かった……?
祭で稼ぐなんてマジでカツアゲのイメージしかないんだが……
ケイリは確かに小柄で細身だ。一見するとこんな肢体でどうやって脅すのかと疑問を呈せざるを得ないだろう。
……しかし、思い出して欲しい。あの時ケイリが見せた負のエネルギーを。
あの闇を煮込んだ、魔女の宴を。
あの時降臨せしめたヤンデレケイリちゃんを見せたら、泣く子は失神、学生昏睡、大の大人は身が朽ちるに違いない。
俺は既にあの時残機を5機失っている。
あれならば80年代の不良だろうが有名な悪役レスラーだろうが、エサに飢えたホオジロザメだろうがひれ伏し、身ぐるみ捨てて全速力で逃げていく。
この世には言葉の暴力という言葉があるが、こいつはそれさえ必要としない。
ただ一言、
「お金ちょーだい♡(ブラック)」
だけできっと充分なはずだ。
そうしたら誰もが財布からありったけの万札を取り出して震えながら許しを乞うはず……
はっ、ダメだケイリ!カツアゲなんて許される行為じゃない!今からでも改心するんだ!
「そっちに行ってはいけない!戻ってくるんだ!」
「……何言ってるのアクト君。黎明期?」
あれ?違うの?
っていうか黎明期ってなんだよ。一体全体何を始めたんだ俺は。
「それで、どこ行ってきたんだよ?」
「これだよ、これ」
ケイリは敢えて問いに答えず、ポケットから赤い紙包みを取り出した。
「開けてみ?」
俺は包みを受け取った。
中には、模様が彫られたピンク色の板があった。
「……型抜き……か?」
「そだよ?」
「型抜きか。なるほどなぁ。むしろ何故その存在に気づかなかったのか不思議だよ全く。祭で唯一資金確保できる屋台じゃないか。うっかりしてたよアハハハハハ…………………
………………………………………………………………………………とはならないからな(真顔)」
「ふぇ!?」
「いやそんな『心外だ』みたいな顔されても………………一応、参考程度に聞くが、いくら稼いだんだ?」
「えっとね……」
ケイリは今日唯一持ってきた道具である財布を開けて、小銭の枚数を数えていた。
その財布は、表面にくっきりと硬貨の模様が浮き出ていた。
しばらくして、
「……ざっと10万9500って所かな」
「ほらやっぱりそんなに稼いで。そもそも型抜きでそんなに稼ぐってのがそもそも……ん?ちょっと待て、10万9500!?」
「えっ?うん。そだけど」
「ぱないの!」
おっと、反射的に某598歳のゴーグルヘルメット幼女が降臨してしまった。
「10万9500?」
「10万9500」
「ウォン?」
「いやドル」
「ドルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「いやごめん流石に嘘。円だよ円」
「いやそれでも充分バグなんですがねぇ」
型抜きってそんな万単位で稼げるやつだったっけ?っていうかそれ以前に、
「型抜きってそんなやれば貰える簡単なゲームでしたっけ!?」
「簡単だって。型抜きって、上手く壊れる角度があって、そういう箇所を打ち続けたら、綺麗に壊れるんだよね。後はそれを店主さんに渡したらお金をもらえるから、それを繰り返せば20分もあればこの位余裕で稼げるよ」
いやいとも簡単におっしゃいますがね、そんな上手く壊れる角度なんて普通じゃわからないですし、仮に分かったとしてもそこを打ち続けるなんてどれだけの忍耐と精密さが必要かって話ですよ。
「どんだけ型抜きすればそんな境地に至れるんだよ……」
「ん~、私は毎年型抜きしてるけど……今まで失敗した事はほとんどないかな〜」
おっとイキリかなぁ?
……いや、多分こいつにとって今の発言はただ事実を陳述しただけなんだろうな……。
嘘だろオイ。毎年大儲けしてたって訳かよ。こいつもう学校なんて行かずに祭回って型抜きしてった方がいいんじゃねえの?20分で10万なら時給30万だぞ。
FX勝ち組なんか目じゃないぜ本当……
「でも唯一、私が生まれてはじめてやった最初の一枚だけは、なんか上手くいかなかったんだよね〜。美味しく食べるしかなかったよ〜全く」
私の経歴に傷がついた〜、なんて言って、スゲエ残念そうにしてるが、今までで型抜き失敗したのが初めてやった1枚だけ!?
まさか!本人は言及してないが、その最初の一枚とやらで型抜きという物の材質からなにからすべて理解したというのか!
信じられない!
…………いや、そうか。彼女は見ただけで体積やらなんやら分かるし、触れれば重さも分かる。そして一回やってみて材質の硬さや脆い部分などを割り出し、計算する。最後にその結果を基に精密に針先を溝に下ろす。そうして稼ぐことができると。
いや、もうマジでバケモノ。
「じゃ、資金も調達したし、遊ぼう!」
「……こいつを本当に祭会場に放してもいいのか?」
来年祭開催できなくなるんじゃなかろうかとほとほと不安になるよ……
「ん?アクト君、何か言った?」
「なんでもない」
まあ、もう会場に着いちゃってる今、何を言っても後の祭だな。
いやまあ、俺たちの祭は、まだまだ始まったばかりだけどさ。
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